接遇研修とは
接遇研修とは、接遇スキルの向上を目指すためのビジネス研修です。接遇とは、顧客に対しておもてなしの心で接することを意味します。接客マナーだけではなく、顧客のニーズに対して適切に応える力を身につけることが大切です。
接遇研修では、言葉づかいやビジネスマナーから、顧客満足度の向上に必要な実務経験までを学びます。例えば、お辞儀の仕方や電話の対応、事例をもとにしたロールプレイングなどを行います。
接遇研修が必要とされる理由
接遇研修は接遇スキルを磨き、顧客対応を工夫して競合他社と差別化するために必要です。近年、販売員の対応の良し悪しにより、商品やサービスの購入を決める顧客が増えています。販売員の対応が悪いと顧客を失う恐れもあるため、接遇スキルは重要です。接遇スキルが磨かれると、従業員同士の円滑なコミュニケーションにもつながります。
接遇と接客は異なる
接遇と接客は比較されますが、観点が異なります。接遇は顧客に接する際に、接客だけでなく「おもてなし」や「思いやり」をプラスし、満足感を提供します。
接客は、顧客に不快感を与えずに必要最低限のサービスを提供することです。顧客目線に立った対応か、必要最低限のサービスかが大きな違いになります。
接遇研修で身につく4つの基本スキル
接遇研修では、顧客や社内外の関係者と円滑な関係を築くための基本的な4つのスキルが身につきます。第一に「コミュニケーション力」です。これは相手の言葉や表情から意図をくみ取り適切に対応する力であり、たとえば来訪者に対して明るく丁寧なあいさつをすることで信頼感を与えられます。第二に「状況判断力」です。これは場面や相手の立場に応じて臨機応変に行動する力で、たとえば混雑時でも優先順位を判断し対応できる接客などに活かされます。第三の「問題解決力」は、クレームやトラブル時に冷静に原因を把握し、迅速かつ丁寧に対処する力です。たとえば商品の誤配送に対し、代替品手配と謝罪を即座に行うことで顧客の信頼回復につながります。最後に「ホスピタリティ」は、相手の立場に立ち、先回りして配慮する心です。例として、高齢の顧客に対して椅子を勧める行動などが挙げられます。これらのスキルは接客や受付、営業など幅広い職種で役立ち、組織全体のサービス品質向上にも貢献します。
接遇マナーには5原則がある
接遇を身につけるには、接遇マナーの5原則を押さえることが大切です。以下で、接遇マナーの5原則について解説します。
・「表情や笑顔」 顧客に親近感と安心感を与える
・「身だしなみ」 身なりが整っており清潔感がある
・「挨拶」 明るく自発的である
・「言葉遣い(話し方)」 顧客の立場や状況に合わせて丁寧さを心がける
・「立ち居振る舞い(態度)」 立ち振る舞いが上品でさわやかである
接遇研修の実施により得られるメリット
接遇研修を実施すると、企業はどのようなメリットが得られるのでしょうか。以下で4つのメリットを解説します。
顧客満足度・企業ブランド価値が向上する
接遇研修により社員の対応力が向上すると、顧客満足度が高まり、企業への信頼感が強まります。接遇レベルは企業イメージと直結し、丁寧な対応がブランド価値の向上やリピーター獲得につながる重要な要素となります。
トラブル・クレームの抑止効果がある
従業員の接遇スキルが向上すると、トラブルやクレームの抑止効果も期待できるでしょう。従業員が顧客の話をよく聞いて理解すれば、顧客満足度が向上して自然とトラブルやクレームの抑制につながります。トラブルやクレーム処理の手間が軽減されれば、業務効率化も実現します。
取引先との関係が良好になる
従業員の接遇スキルが高い企業は、信頼や尊敬から好感度を上げ、取引先との良好な関係が築けます。取引先との関係がいいと、スムーズな取引ができて、お互いの利益を上げられます。接遇スキルが低く高圧的な態度の企業とはスムーズな取引はできず、いい関係は築けません。
従業員のモチベーションが維持される
接遇研修により、従業員のモチベーションは維持されます。従業員の接遇スキルが向上すると、社内コミュニケーションにも良い影響を与えるためです。社内コミュニケーションが円滑になれば、活発なディスカッションができたり、コミュニケーション不足によるミスも減り作業効率が向上します。作業効率の向上は、職場環境の改善になります。
社内コミュニケーションの活性化
接遇研修で培われる傾聴力や共感力、丁寧な言葉遣いは、社内コミュニケーションにも良い影響を与えます。社員同士が相手を思いやる姿勢を持つことで、信頼関係が築かれやすくなり、部署間の連携や情報共有がスムーズになります。たとえば電話の取り次ぎやメール連絡での配慮が行き届くことで、誤解やミスの防止につながり、職場内での人間関係も円滑になるでしょう。また丁寧な応対が職場全体の雰囲気を和らげ、相談や報告がしやすい風土が醸成され、組織の円滑な運営に貢献します。
業界別に見る接遇研修の特徴
接遇研修は業界ごとに求められる対応や重点が異なり、それぞれの特性に応じた内容で実施されます。たとえば医療業界では、患者の不安を和らげるための「安心感を与える声かけ」や「共感的な対応」が重視され、受付や看護師の表情や言葉遣いが信頼形成に直結します。ホテル業界では、ホスピタリティのような非言語コミュニケーションを含めた高水準のサービス提供が求められ、身だしなみや所作、正確かつ丁寧な案内が評価のポイントです。小売業界では顧客の年齢やニーズに応じた柔軟な応対力が必要で、「いらっしゃいませ」から「ありがとう」までの一貫した接客の質が重要です。金融業界では専門的な情報を扱うため「正確性」「説明力」「機密保持」が不可欠で、信頼感を醸成する落ち着いた態度や敬語の使い方が必要になります。このように接遇研修は業界の特性や顧客層に合わせて設計され、現場で即戦力として活かせるスキルの習得を目的としています。
接遇研修の形式
接遇研修を実施するには3つの形式があります。以下で、それぞれの形式について解説します。
外部企業や講師による研修
接遇研修の実施形式には2つの方法があります。1つは、研修会社や講師が日時・場所を決めて研修を開く方法です。もう1つは、自社が研修準備を行い、講師を派遣してもらいます。業界や業種により接遇の内容は異なりますが、共通する基本的な接遇マナーはプロに任せると効果的です。
OJTによる研修
OJTによる研修も代表的な形式です。OJTとは、先輩従業員による顧客への対応を見るだけでなく、自ら実務経験を積み、知識や技術を身につける研修形式で、「On-the-Job Training」の略です。OJTは、その場でフィードバックを受けられるため、高い学習効果が期待できます。
※参考記事:OJTとは?
オンライン研修
オンライン研修とは、Web上で実施される研修形式で、Web会議ツールを用いる方法とeラーニング形式の方法があります。オンライン研修は、インターネット環境が揃っていればどこからでも参加できるため、全国に支店がある企業におすすめの形式です。オンライン研修の活用により、会場費や移動費を削減できるメリットもあります。
※参考記事:オンライン研修のメリット・デメリットとは?
ロールプレイング研修
ロールプレイング研修は、実際の接遇場面を想定し、参加者が役割を演じながら対応力を高める実践的な研修形式です。まず講師が状況設定を説明し、受講者は「接遇する側」と「顧客役」に分かれて対応を体験します。たとえば来客対応やクレーム対応、電話応対などのシナリオに沿って行動し、リアルな場面での判断力や言葉遣いを磨きます。演習後は第三者(講師や参加者)からのフィードバックも行い、良い点や改善点を具体的に伝えることでより高い研修効果を得られるでしょう。さらに「表情が柔らかくて安心感があった」「語尾が曖昧なので言い切るとより丁寧に伝わる」など、行動に基づいた助言が効果的です。こうしたロールプレイングを通じて、知識を行動に落とし込み、接遇スキルの実践力を高めることができます。
関連記事:https://www.u-can.co.jp/houjin/column/cl225.html
各形式の費用相場と特徴比較
接遇研修の形式にはさまざまな方法があり、それぞれ費用や効果に違いがあります。以下の表に費用相場と特徴を示します。
| 研修形式 | 費用相場 | 特徴と費用対効果 | おすすめの企業 |
| 外部研修 | 1回あたり3~10万円/人 | ・専門講師による質の高い内容が提供される ・費用は高いが即効性も高い | 中~大規模企業 |
| OJT | 人件費のみ | ・実務に必要なスキルの向上に効果が高い ・指導者のスキルに依存しやすい | 小~中規模企業 |
| オンライン研修 | 月額1,000~5,000円/人 | ・低コストで継続しやすく、時間と場所の制約が少ない | すべての企業 |
| ロールプレイング研修 | 5~15万円/回(人数による) | ・実践経験を積みやすい ・講義内容や講師の質に左右されやすい | 接客・接遇が必要な企業 |
企業のニーズや予算に応じて、これらの形式を組み合わせることで、接遇研修の効果を最大化できます。
接遇研修の流れ
実際に実施する際には、どのように進めればいいのでしょうか。以下で4つのステップを解説します。
自社の課題を把握する
実施にあたっては、自社の課題の把握が必要です。企業の業種や業態により求められる接遇スキルは異なるため、自社が求める接遇スキルや社内の課題を洗い出しましょう。課題が把握できると、研修内容が選びやすくなります。
接遇の重要性を理解させる
接遇研修の効果を向上させるには、研修を受ける従業員に接遇の意味やメリットを理解してもらいましょう。従業員が接遇研修を受ける目的意識を持つと、接遇スキルの向上や社内コミュニケーションが円滑になる効果なども期待できます。
基本の接遇スキルを身につけさせる
接遇研修では、始めに基本の接遇スキルを身につけます。接遇マナーの5原則は基本になりますが、企業の業種や業態により必要な接遇スキルは異なる部分もあります。効果を高めるには、業界や業種に熟知した研修会社や講師への依頼がおすすめです。
学んだことを実践させる
接遇研修で学んだ内容を実践すると、さらに接遇スキルが身につきます。実践では、ロールプレイングを行ってからOJTへ進みましょう。ロールプレイングとは、現場や実際に近いシチュエーションを設定し、従業員同士が役割を演じてスキルを身につける練習方法のことです。
研修効果を測定する
接遇研修の効果を測定するには、数値化できる指標と定性的な評価を組み合わせることが重要です。代表的な方法として、まず顧客満足度調査により接遇の印象や改善点をアンケートで収集し、満足度スコアの変化を数値で把握しましょう。次にミステリーショッパー(覆面調査員)による現場評価により、表情・言葉遣い・対応の丁寧さなどを客観的に観察・評価できます。さらに社内評価で上司や同僚による日常の接遇行動の変化をフィードバックとして収集し、継続的な改善につなげることが可能です。これらを組み合わせることで接遇の質を定量・定性の両面から測定でき、研修の成果や課題を明確にし、次の研修設計に活かすことが可能になります。
研修後のフォローアップを行う
接遇研修は一度きりの実施では定着が難しく、継続的なフォローアップが不可欠です。接遇スキルは経験と反復によって磨かれ、日々の業務での実践を通じて習慣化されるからです。効果的なフォローアップとしては、3か月~半年ごとの定期研修やフォロー面談があります。内容としては、現場での接遇事例の共有、改善点のフィードバック、ロールプレイの再実施などを含むことで、実務とのつながりを維持できます。また、eラーニングやチェックリストによる自己点検も効果的です。こうした継続的な支援により社員の意識とスキルが向上し、安定した接遇品質の維持につながります。
失敗しない接遇研修の選び方
接遇研修で失敗しないためには、選ぶ際にポイントがあります。以下で、3つのポイントについて解説します。
1. 実績のある研修会社や講師を選ぶ
接遇研修を実施する際には、実績のある研修会社や講師を選びましょう。接遇スキルは、業種や業態に関係なく、共通する部分も多くあります。そのなかでも、自社の業界を熟知して得意とする研修会社や講師を選ぶと効果的です。実績のある講師の指導は、従業員の接遇スキルの習得率が高まります。
2. 時代や自社のニーズに合っているかで選ぶ
接遇研修の内容が、時代や自社のニーズに合っているかも選ぶポイントです。近年顧客ニーズは多様化しており、顧客が求める対応レベルも高まっているため、接遇研修も最新事情に精通したプログラムが必要です。時代遅れな内容や自社のニーズに合わないと、従業員にとって価値のない研修になります。
3. 研修形式で選ぶ
接遇研修は、形式で選ぶのもいいでしょう。多くは、講義後にロールプレイングを行う集合型研修が実施されています。近年はインターネットの普及もあり、オンライン研修やeラーニング形式の個人型の研修も増えています。個人型の研修は、進捗状況が把握しにくいため、定期的に効果測定の実施が必要です。
4. カスタマイズ対応の柔軟性で選ぶ
失敗しない接遇研修を選ぶには、研修会社の「カスタマイズ対応の柔軟性」が重要な判断基準です。チェックポイントとしては、次の点が挙げられます。
・事前ヒアリングの丁寧さ
・業界・職種ごとの対応実績
・研修内容の調整可否
たとえば医療機関ではクレーム対応に特化したロールプレイを加えたり、小売業では多様な年齢層への声かけ方法に焦点を当てた内容に変更したりするなど、現場の実情に合わせた設計が可能かを確認しましょう。さらに、自社の接遇マニュアルや評価制度と連動させた研修設計を行えるかも重要です。こうした柔軟な対応により、実務に直結した内容で効果的なスキル定着が期待でき、研修の成果を最大化できます。
5. 研修後のサポート体制で選ぶ
接遇研修の効果を持続させるには、研修後のアフターフォロー体制が非常に重要です。単発で終わる研修では、学んだスキルが実務に活かされずに風化するおそれがあります。確認すべきサポート内容としては、フォローアップ研修の実施可否、受講者への定期アンケート、行動変容のチェックリスト提供、個別相談対応などが挙げられます。たとえば定期的に振り返りセッションを実施し、現場の悩みに応じたアドバイスを行う研修会社は、実践支援に強みがあると考えてよいでしょう。また講師と人事担当者が連携し、接遇改善の定着状況を継続的に共有できる仕組みを持つ企業もおすすめです。こうしたサポート体制が整っている研修会社を選ぶことで、継続的なスキル向上と組織への定着を実現できます。
まとめ
接遇研修を実施すると従業員の接遇スキルが向上して、顧客満足度の向上だけでなく、従業員同士や取引先との関係も良好になるなど、多くのメリットが得られます。接遇スキルを向上させるには、自社に合う研修内容にすることが大切です。実績のある研修会社や講師、自社に合う研修の形式を選びましょう。
ユーキャンの法人向け人材育成サービスは接遇スキルを向上させる研修や講座を多数実施しており、eラーニングや集合研修・オンライン研修など、ご要望に合わせた提案が可能です。接遇研修を検討している方は、お問い合わせ下さい。

