コーチングとは?
コーチングとは、対話を通じて相手の思考や行動を引き出し、自発的な成長や目標達成をサポートするコミュニケーション技法です。ティーチングのような命令や指導ではなく、質問や傾聴を重視し、相手自身が答えを見つけることを促す点が特徴です。ビジネスや教育、スポーツなど幅広い分野で活用され、人材育成や組織の活性化に効果的な手法とされています。
ビジネスでのコーチング
ビジネスにおけるコーチングは、部下やメンバーの自律的な成長を促し、主体性や創造性を引き出すためのマネジメント手法として注目されています。上司が一方的に教えるのではなく、質問や対話を通じて相手に気づきを与え、自分で答えを導き出せるようサポートする姿勢が求められます。取り組みのポイントは、まず信頼関係の構築、次に傾聴と共感の姿勢、そして目標達成を見据えた継続的なフォローです。これにより部下のエンゲージメントが高まり、組織全体の生産性向上や離職率の低下にもつながります。
コーチングとティーチングやカウンセリングの違い
ティーチングは、上下関係が明確にある指導方法です。上司が部下に対して目指すゴールを提示し、指示を出します。カウンセリングは、相手の不安や悩みなどを解消することが目的のコミュニケーションです。コーチングと似ている部分はあるものの、指導の方法や目的が異なります。
コーチングとカウンセリングの違い
コーチングとカウンセリングの違いを解釈するには、目的・方法・適している人の3点から知る必要があります。まず、コーチングは達成したい目的がある人に対し、目標達成に向けたアドバイスや指導を行うものです。方法は最初にどんな目標があるか確認し、現状と課題の分析、必要な要素は何か、目標に向かうためのマイルストーンなども設定しながら目標達成をサポートします。コーチングに適している人は、成果を求めている人や目標へ向かう手段がわからない人、理想と現実にギャップを感じている人などです。
一方、カウンセリングは悩みや不安を抱えており、克服または解決のための心理的サポートがほしい方に行うものです。方法はコーチングとも同じように現状分析からスタートしますが、明確な目標を設定するのではなく、本人の悩みが解消されるまで続けることが大きな違いといえます。カウンセリングは不安や悩みを抱えている人、自分に自信が持てない人、人間関係に悩みがある人などに適しています。
コーチングとティーチングの違い
ティーチングは知識やスキルを教える指導方法の1つで、コーチングとは対象となる人や指導方法も大きく異なります。ティーチングは最初に目的があり、その目的を達成するために知識とスキルを教えることが重視されます。そのためコーチングのようにサポートするのではなく、教師と生徒または上司と部下のような形で実施される点が違いです。コーチングのように伴走し、自ら正解に気付くよう支えるのではなく、ティーチングは答えを教えることで学んでもらう指導方法です。ティーチングが活用されるのは知識がほとんどない新人への教育や、若手への指導を行う場面などがあります。コーチングは管理職の育成や、部下に対するマネジメントなどの場面で利用されます。
コーチングの主なメリット
コーチングにはどのようなメリットがあるのでしょうか。おもな2つのメリットを解説します。
従業員が新たに加わった際の育成に役立つ
コーチングは考える力を伸ばし、自主性を高める手法です。仕事の流れや環境に慣れていない人の指導にコーチングを導入することで、自主的な質問や悩みの相談を促せ、自発的な行動にもつながりやすいでしょう。
信頼関係を築き、モチベーションを維持できる
コーチングを意識してコミュニケーションを積極的に取ることで、信頼関係につながります。上司と部下の間に信頼関係ができると、意思疎通や意見交換の頻度が上がるでしょう。従来よりも頻繁にコミュニケーションを取ることで、仕事上の課題や問題解決へのスピードアップが期待できます。
セルフ・コーチングのスキルが身に付く
セルフ・コーチングは自分でコーチングを行って、自らの現状を把握し、目標を設定して行動するコーチング手法です。セルフ・コーチングを上手く利用すれば、目標設定と実行、評価までのPDCAサイクルが速くなり、大きく成長できます。時には他者からのコーチングを受けながら軌道修正も行うと、セルフ・コーチングの効果はさらに高まります。
ただし、セルフ・コーチングは独りよがりな目標や成果につながることもあるため、実施する際は注意しましょう。
コーチングの主なデメリット
一方で、コーチングにはデメリットも存在します。おもな2つのデメリットを解説します。
効果が表れるまでに時間がかかる
コーチングは自主性を促すため、効果が出るまでに時間がかかることがあります。効果が出ないと目的がわからなくなりやすいため、はじめから時間に余裕を持ち、長期的な視点を持つことが必要です。
専門的なスキルが求められる
コーチングで効果を出すには、専門的なスキルが必要です。担当する人のスキルや経験が不足していると、期待していたような効果が出ず、非効率的な手法となる恐れがあります。
コーチングにおけるコーチ・トレーナーの役割
コーチングにおけるコーチやトレーナーの役割は、相手が自らの目標を明確にし、その達成に向けて主体的に行動できるよう支援することです。コーチは知識を教える立場ではなく、対話を通じて相手の内面にある価値観や考えを引き出し、気づきや行動変容を促す伴走者です。具体的には適切な質問やフィードバックを通じて、課題や目標に対する思考を深め、自律的な判断や行動をサポートします。一方のトレーナーは特定のスキルや知識の習得に向けた指導を行う役割を持ち、より実践的なアドバイスを提供するのが役割です。ビジネスにおいては、コーチは長期的な成長支援、トレーナーは短期的なスキル習得支援として使い分けられることが多いです。
コーチングに必要な3つのスキル
コーチングにおいては、相手との信頼関係を構築し、自分なりの答えへとたどり着けるまでサポートすることが重要です。そのためには、次の3つのスキルが求められます。
・傾聴
・質問
・承認
それぞれのスキルの詳細について解説します。
1.傾聴
コーチングにおいて「傾聴」は最も重要なスキルのひとつです。傾聴とは、単に相手の言葉を聞くことではなく、相手の話の背景や感情、意図までを深く理解しようとする姿勢を指します。相手が安心して本音を話せる場をつくるには、まず「しっかり聴いてもらえている」という実感を持たせることが不可欠です。
・相づちやうなずき
・アイコンタクト
・相手の言葉や仕草を繰り返す(ミラーリング)
上記のような反応を会話や日常的な業務の中で意識的に行い、真剣に向き合っていることを態度で示す必要があります。また相手の話を途中で遮らずに聴き切ること、評価やアドバイスを急がずに、相手が自ら考えを整理するのを待つ姿勢も重要です。こうした傾聴の積み重ねにより信頼関係が構築され、相手は安心して自分の考えを深められるようになります。つまり、傾聴はコーチングの効果を高めるための土台となるコミュニケーションスキルであり、コーチとしての姿勢そのものを表す要素といえるでしょう。
2.質問
コーチングにおいて「質問」は、相手の気づきや思考を深めるための最も重要なスキルのひとつです。コーチは答えを与えるのではなく、相手が自分で答えを見つけ出すよう導くことが役割です。そのために有効なのが、次のような質問です。
・この課題に対してどう思うか
・なぜそう考えるのか
・もし制約がなかったらどうするか
このような内省や新たな視点を促す質問が「オープンクエスチョン」です。「はい」「いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンに比べ、オープンクエスチョンは自身の価値観や思考パターンに気づき、次の行動へのヒントを見つけることができます。また、質問は相手の思考の整理にも役立ちます。
・それは具体的にどういうことか?
・それを達成するために何が必要か?
曖昧な考えや漠然とした不安に対して、問いを重ねることで考えを明確にし、目標達成の道筋を描けるようになります。ただし、質問は詰問的な内容にならないよう注意が必要です。あくまで相手の立場に寄り添い、答えを引き出すためのサポートであることを意識することが大切です。
3.承認
コーチングにおいて「承認」は、相手の存在や行動、考え方を肯定的に受け止め、自己肯定感とやる気を引き出すために重要なスキルです。承認は「すごいですね」と褒めることだけでなく、相手の努力や変化、意欲そのものを認める姿勢を指します。
・コツコツ続けているのが素晴らしい
・考え方が前向きで良いですね
上記のような言葉は、相手の内面に焦点を当てる承認となり、自信やモチベーションの向上につながります。ただし承認には相手を評価せず、ありのままを受け入れる「無条件の承認」と、具体的な行動や成果に対してフィードバックを与える「条件付きの承認」があることを意識すべきです。無条件に相手を承認するばかりではなく、どちらもバランスよく使うことで、相手は「自分の存在が認められている」と感じ、より前向きに行動しようとする意欲が高まります。承認の言葉は信頼関係を築くうえでも欠かせない要素であり、コーチングを継続的に機能させる土台です。コーチは相手の小さな変化や努力にも目を向け、言葉と態度でしっかりと承認する姿勢が求められます。
コーチングに必要な3つのスキル
コーチングを成功させるには、3つのスキルが欠かせません。それぞれのスキルについて解説します。
1.傾聴
傾聴とは、相手の話を深い部分まで聞くことに加えて、相手の話し方や表情などに注目することです。これらを同時に行い、相手への理解を深めるコミュニケーション技法のため、相手を受け入れる受容と、同意の気持ちを持つ共感の2つが欠かせません。相手を深く観察し、感情に心を配るようにしましょう。
2.質問
質問とは、相手が自ら気付きの機会を多く持てるような質問をすることです。質問された相手が、質問への答えによって自分自身を分析できるように導く質問をします。なかでも自分の言葉で失敗を分析できるような質問を「問題の外在化」と呼び、コーチングではこの問題の外在化を積極的に取り入れます。
3.承認
承認とは、相手の長所を発見したり、言葉や態度で伝わるように褒めたりすることです。お世辞にならないように実際のいい部分を見つけ、言葉や態度で確実に伝わるように褒めましょう。承認の際には「すぐに」「具体的に」「一貫性を持って」褒めることが大切で、好ましい行動の定着を促します。
コーチングの手順
コーチングを効果的に実行するためには、正しい手順があります。4つの手順について、解説します。
1.現状の課題を確認する
仕事上の課題がある場合、部下にどのような課題があるのかを確認することが必要です。その際は部下が話しやすいように、上司は雑談を含めて話しましょう。部下は上司に話すことで、考えや感情を整理しやすくなります。課題や不満などの抱える本音を言えるように、さまざまな内容を尋ねましょう。
2.目標を明確にする
どのような状況になりたいのか、目標達成を難しくしている課題は何なのかをはっきりさせ、部下にとっての目標を明確にしましょう。モチベーションを下げないよう、できるだけ否定しないように意識することが大切です。
3.段階ごとの計画を立てる
目標達成に向けて、取り組むべき行動の計画を立てます。小さな行動を重ねて成果につなげられるよう、段階ごとの計画を立てるといいでしょう。その過程では、現実的な視点と建設的な批判を交えて、計画の精度を高めます。段階ごとに締め切り日を決めると、集中して取り組みやすくなります。
4.経過を見つつ、継続的にフォローする
放置することなく定期的に声掛けをしながら、部下の様子を見守りましょう。声掛けの際には計画の達成状況の確認や、努力の方向性が正しいのかなど、フォローを続けて目標の達成に導きます。
コーチングが機能しない理由
コーチングがうまく実施できれば部下の成長を促し、即戦力となる人材を育成できます。一方でコーチングを取り入れてもうまく機能せず、思うような成長につながらない場合も考えられます。具体的には、次の2つの理由が代表的です。
・信頼関係が築けていない
・目標や目的が不明確なまま進めている
それぞれの理由を詳しく解説します。
信頼関係が築けていない
コーチングは、相手が本音で話し、主体的に思考・行動することを前提とした対話手法であるため、コーチと対象者との間に信頼関係が築かれていないとうまく機能しません。信頼がない状態では、相手は質問に対して表面的な答えしか返せず、コーチも対象者の内面への理解が乏しいことから、内省や気づきにつながる深い対話が難しくなります。またコーチの姿勢や言葉遣いが高圧的であったり、傾聴が不十分だったりする場合も、相手は警戒心を抱きやすく、信頼関係の構築を阻害する要因になります。コーチングが効果を発揮するためには、安心して対話できる心理的安全性を確保し、誠実に相手と向き合う関係づくりが前提となる点を踏まえなければなりません。
目標や目的が不明確なまま進めている
コーチングは、相手が自らの目標に向かって主体的に考え行動することを支援する手法です。しかしその目標や目的が不明確な場合、対話が抽象的で方向性を見失いやすくなります。たとえば「成長したい」「もっと成果を出したい」といった漠然とした希望に対し、具体的な目標設定がされていないと、コーチングの進行が迷走しやすく、行動変容にも結び付きにくくなります。そのためコーチには、初期段階で相手の価値観や現状を引き出しながら、達成可能かつ意義のある目標設定を一緒に行うという工程が必要です。明確なゴールを共有することで対話に方向性と意味が生まれ、コーチングが効果的に機能します。
コーチングを習得する方法
コーチングの技術を身につける方法はさまざまです。有効とされる5つの方法について解説します。
資格をとる
コーチングに国家資格はありませんが、いくつかの資格が存在するため、おもな3つを解説します。1つ目に、日本で初めてのコーチ認定制度として、一般財団法人生涯学習開発財団の認定コーチ資格があります。コーチングプログラムを履修して、実践経験を積むことで取得可能です。日本でもっとも取得されているコーチング資格で、初心者に適しているでしょう。
2つ目に、一般社団法人日本コーチ連盟(JCF)の認定コーチ資格があります。コーチとして活躍するためと、コーチング技能を教授するインストラクターのための2つの資格を発行しています。
3つ目に、国際コーチ連盟(ICF)から認定を受けている国際的な資格として、アソシエイト・サーティファイド・コーチ(ACC)と、プロフェッショナル・サーティファイド・コーチ(PCC)、マスター認定コーチ(MCC)の3つが取得可能です。
明確なプログラムやセミナーはありませんが、取得には国際コーチ連盟が設ける一定の基準を満たし、認定された外部団体や組織によるトレーニングを受ける必要があります。
本から学ぶ
コーチングについて書かれた初心者向けの本や、ビジネス書でコーチングについて書かれたものを読むと、レベルや目的に応じた知識が身につきます。手元に置いておくと、繰り返し学びなおせることが魅力です。費用も抑えられますが、受動的な学習となり知識が身につく以上の効果を得るのは難しいでしょう。
eラーニングで学ぶ
教育事業会社などが提供しているeラーニングでは、視覚的に情報を学べるため、コーチングの具体的なイメージがしやすいのがメリットです。動画を閲覧するだけでなく、アウトプットができるテストなどがついていると、知識の習得と定着に効果的です。
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コーチングを受けることで学ぶ
自身がコーチングを受ける側に回って、プロからコーチングを受けることで実際のコーチングを体験できます。プロから体系的に学べるため、正しいコーチング技術を身につけやすいでしょう。コーチングを行う側がどのような言動を選択しているかを深く観察すると、実践的な学びを得られます。
セミナーや研修から学ぶ
企業や団体などが開催するセミナーや研修に参加することで、プロから体系的に学べます。座学形式と体験形式のものがありますが、座学形式は本や動画から学べるため、体験形式のものがおすすめです。どのようなセミナーが実施されているかを調べて、自分に適したセミナーに参加してみるといいでしょう。
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まとめ
コーチングとは、目標達成のために気付きを与え、主体的な行動を促す手法です。ビジネスでは、上司が部下とのコミュニケーションを重視し、主体性を育てます。コーチングでは一方的な関係性にならず、信頼関係を築くことが大切です。
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