人材育成に欠かせないコーチングとは何?
コーチングとは、相互の対話を通じて相手の気づきや自己成長を促し、自発的な行動変容や目標達成を支援する育成手法です。助言や指示ではなく、質問や傾聴により相手が内面と向き合う機会につなげ、本人なりの答えを引き出すことが特徴です。ビジネスや教育、スポーツなど幅広い分野で活用されています。
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コーチングとティーチングの違いについて
コーチングとティーチングはどちらも人の成長を支援する手法ですが、そのアプローチ方法に大きな違いがあります。ティーチングは知識やスキルを持つ指導者が教える立場に立ち、答えや正解を伝えることで学習を促すことです。学校のような教育現場や会社の新人研修などで多く用いられます。一方の コーチングは単に公式や答えを教えるのではなく、質問や傾聴を通じて対象者自身が答えを見つけ、自発的に行動できるよう支援することです。相手の主体性や内発的動機を重視し、自己成長を引き出す点が特徴です。つまりティーチングは「知識等を教える」こと、コーチングは「答えを引き出す」ことに重きを置いており、状況や目的に応じて使い分けが重要となります。
ビジネスにおけるコーチングの実施方法
ビジネスにおけるコーチングは、部下やチームメンバーの能力開発や目標達成を支援するために、上司や専門のコーチが対話を通じて実施します。まず相互の信頼関係を築くことが前提であり、安心して話せる環境を整えることが重要です。そのうえで目標の明確化、現状の把握、課題の特定を行い、相手が自ら解決策を考えるプロセスを促します。代表的なフレームワークとしてGROWモデル(Goal=目標、Reality=現状、Options=選択肢、Will=意志・行動計画)があり、段階的に質問を重ねることで相手の気づきを引き出します。またコーチングでは傾聴や共感的なフィードバックを用いることで、相手の内発的動機を高め、継続的な行動につなげることも重要です。定期的な面談や1on1ミーティングの場で取り入れることで、組織全体の生産性やエンゲージメント向上にも寄与します。
人材育成のためにコーチングを導入するメリットとは?
人材育成のためにコーチングを導入することで、企業で活躍できる人材の育成につながります。具体的にコーチングを活用することでどのようなメリットがあるのか、7つのポイントを紹介します。
主体性の向上
コーチングを通じて主体性が向上することにつながり、対象者が自ら考え意思決定できるようになります。 コーチングは対象者の答えを引き出し、行動するプロセスを重視しているためです。ティーチングのように答えを教えるのではなく、質問や傾聴によって気づきを促すため、対象者が自発的に課題に取り組む姿勢も育まれます。これにより指示を待つ受け身の姿勢から脱却し、自分で課題を見つけて解決しようとする能動的な行動が生まれます。そして主体性の高さは変化の多いビジネス環境においても柔軟に対応し、個人と企業が成長し続けるための重要な力となり、組織全体の活性化にもつながるでしょう。
コミュニケーションスキルの強化
コーチングでは、相手の話を深く聴く「傾聴」や、気づきを促す「質問」、適切な「フィードバック」などの対話技法が中心となります。これらを実践することで、相手の意図や感情を正確に受け取り、共感をもって対応する力が養われます。またコーチングを通して対象者に合わせて自分の考えを整理して伝える力も高まり、双方向のやり取りが円滑になる点も大きなメリットです。特にビジネスの現場では、信頼関係の構築やチームの協働においてコミュニケーションスキルは不可欠です。コーチングの継続的な実施は、こうしたコミュニケーション力を自然に高め、職場全体の対話の質を向上させる効果があります。
課題解決力の育成
コーチングでは、課題に対して直接的に答えを与えるのではなく、質問や対話を通じて対象者が自ら解決策を考えるよう促します。このプロセスにより状況を客観的に把握し、本質的な問題を見極める力が養われる点がメリットです。またビジネスにおいて重要な複数の選択肢を検討し、自ら意思決定を行う習慣が身につくため、柔軟な思考力や判断力が向上します。さらに自分で考えた解決策には責任と納得感が伴うため、実行力も高まりやすい点もメリットといえるでしょう。課題解決力は、日々の業務改善や突発的なトラブル対応などあらゆるビジネスシーンで活かせるスキルであり、組織全体の対応力強化にもつながります。
モチベーションの維持・向上
コーチングは、相手の価値観や目標に基づいた対話を通じて内発的な動機を引き出すことに重点を置きます。対象者は自ら設定した目標に向けて行動することで、納得感や達成感が得られ、自然とモチベーションが高まる点がメリットです。また定期的な振り返りやフィードバックにより、小さな成長や成功を実感できるため、前向きな気持ちが持続しやすくなります。 外部からの報酬や評価といった外発的動機に頼らず、本人の内側から湧き上がる意欲を育てることで、変化の多い職場環境でも継続的に高いパフォーマンスを発揮しやすくなります。内発的動機づけにつながった社員が増えることで、離職防止や人材の定着にも寄与することから、組織にとって非常に重要な施策といえます。
リーダーシップの醸成
コーチングは自己認識を深めながら自律的に考え行動する力を育むため、将来的なリーダー育成に非常に効果的です。コーチングを通じて自分で課題を見つけ、他者と協力して目標に向かう経験は、リーダーに必要な課題解決力や判断力を養います。また傾聴や共感的対話を通じて、他者を尊重し支援する姿勢が育まれ、支援型リーダーシップの土台となる点もメリットです。さらにコーチングを受けた人は、部下やチームメンバーに対しても同様の姿勢で関わるようになり、良好な人間関係と信頼に基づいたマネジメントが可能になります。このようもリーダーシップを高めるコーチングを行うことで、組織全体におけるリーダー層の質の底上げが実現します。
信頼関係の構築
コーチングでは、相手の話を否定せずに受け止める「傾聴」や「共感」、誠実な「フィードバック」が重視されるため、自然と信頼関係が築ける点もメリットです。特に上司と部下の関係においては評価や指示が中心になりがちですが、コーチングを取り入れることで対等な立場での対話が可能となり、部下の心理的安全性が高まります。信頼関係があることで、部下は自分の考えや悩みを上司に共有しやすくなり、上司もそれと真摯に向き合うことで相互理解が深まります。このような関係性はチームの一体感や協力体制の強化にもつながり、組織全体のコミュニケーションの質向上にもなるでしょう。
組織全体の成長促進
コーチングによって個々のメンバーが主体性や課題解決力を高めることで、その効果は個人の枠を超え、組織全体へ波及します。自律的に行動する人材が増えることで、現場での判断や対応が迅速になり、業務の効率化や創造性の向上へとつながるのがメリットです。またコミュニケーションの質が高まり、協力体制が強化されることで、チーム全体のパフォーマンス向上も期待できます。さらに従業員の満足度やエンゲージメントが高まることで、離職率の低下や人材の定着にもつながり、持続的な組織成長の基盤が築かれます。
人材育成でコーチングを行う際に押さえておくべきポイント
人材育成でコーチングを活用するには、企業と指導者がきちんとポイントを押さえておくことも重要です。どのようなポイントを意識すべきか、3点詳しく紹介します。
信頼関係の構築
コーチングは相手の内面に働きかける対話であるため、まずは対象者が安心して話せる関係づくりが不可欠です。
信頼関係がなければ相手は本音を話さず、コーチングの効果も不十分となってしまいます。コミュニケーションでの傾聴や共感を通じて「否定されない」「受け止めてもらえる」という安心感を与えることが重要です。また守秘義務を守ることや、相手の立場や状況に配慮した対応も信頼構築には欠かせません。関係性が安定することで相手は自己開示しやすくなり、深い気づきや成長が促進されます。
明確な目標設定
コーチングでは、漠然とした会話よりも具体的な目標を設定することで効果が高まります。目標が明確であれば、現状との差や自分に不足している部分を把握しやすく、行動計画の立案もスムーズになるためです。また達成度を測る定量的な指標があると、進捗確認やフィードバックも具体的に行えるようになり、モチベーション維持にもつながります。目標は本人が納得して設定することが重要であることを前提として、上司やコーチが押し付けるのではなく、対話を通じて自発的に導き出すことが成果を左右します。
気づきを促す質問
コーチングでは答えを教えるのではなく、相手が自分で答えを見つけることが重要です。そのためには「なぜそう思うのか」「別の方法があるとすれば?」といったオープンな質問を用いて、対象者自身の内省を深めることが効果的です。的確な質問は思考を整理し、新たな視点を得るきっかけとなります。ただし質問が詰問的になったり誘導的になったりしないよう注意しましょう。相手の状況や感情に寄り添いながら、対話を通じて自然に気づきを引き出す姿勢が求められます。
人材育成においてマネジメントスキルを高める手法として、マネジメント関連の書籍や動画による自主学習は、手軽かつ継続的に学べる有効な方法です。書籍では目標設定やフィードバック、コーチング、モチベーション理論、リーダーシップのあり方など、マネジメントに必要な知識やフレームワークを体系的に理解できます。また書籍にまとめられた著名なマネージャーや企業の事例を通じて、実践に役立つ視点を得られる点も魅力です。一方の動画やセミナー形式のコンテンツでは、視覚的・音声的に学べるため理解しやすく、時間の限られた中でもスキマ時間を活用してインプットが可能です。こうした学びを日々の業務と結び付けて実践することで、より効果的なスキル向上が期待できます。さらに知識を同僚と共有したりディスカッションしたりすることで理解が深まり、組織全体のマネジメント力の底上げにもつながります。
人材育成における効果的なコーチングの進め方
人材育成において効果的なコーチングを行うには、大きく7つのステップに分かれます。まとめると次の表の通りです。
| ステップ | 具体的な内容 | 目的 |
| 1.関係構築(ラポールの形成) | 対象との信頼関係(ラポール)の確立のためコミュニケーションを図る | 対象者との傾聴・共感を通じて心理的安全性を高め、率直な対話を行う |
| 2.目標設定 | 対象者の意思を尊重しつつ、自社の求める人材との整合性を意識して目標を明確化する | 本人の価値観や同期に基づいた具体的で達成可能な目標を設定する |
| 3.現状把握 | 現在の企業・職場の状況や課題を客観的に整理する | 事実ベースと感情ベースで現状と課題を把握し、その本質を見極める |
| 4.選択肢の提示 | 複数の行動案・解決策の検討を求める | 単一の解決策にこだわらず、多角的な思考と柔軟な視点を育成する |
| 5.意思決定 | 具体的な行動指針の決定とコミットメントを行う | 自発的な行動計画を対象者自身が決定することにより、主体性と実行力の向上を図る |
| 6.実行支援 | 計画した行動を実施し、対象者をフォローする | 定期的な確認とフィードバックにより、進捗の定期的な確認と見守り、軌道修正を行う |
| 7.振り返り・フィードバック | 結果の評価と学びの確認、良い点と改善点をフィードバックする | 成果と失敗を振り返り、成長の実感と次回に向けた課題を明確化し、将来的な成長を促す |
さらに、各ステップの具体的なポイントは次の通りです。
1.関係構築(ラポールの形成):コーチングの成果は、信頼関係の質に大きく依存します。まずは相手の話を否定せずに受け止める「傾聴」、相手の立場や感情に寄り添う「共感」を通じて安心して話せる環境を整えます。初めての対話では雑談や価値観の共有など、関係づくりに重点を置くと効果的です。
2.目標設定:次に本人の価値観やキャリア志向に基づいて、達成可能かつ具体的な目標を設定します。SMART法(Specific、Measurable、Achievable、Relevant、Time-bound)を意識すると明確化しやすいでしょう。
3.現状把握:このステップでは目標に対する現時点でのギャップや課題を明らかにします。客観的な事実だけでなく、本人の感情や思い込みなども整理することで、課題の根本原因に気づくきっかけとなります。
4.選択肢の提示:目標達成のための複数の手段やアイデアを一緒に検討します。「他にできることは?」「過去にうまくいった方法は?」といった問いかけで、多角的な思考を促します。発想を広げることで、より柔軟で実行可能な選択が可能になるでしょう。
5.意思決定:さまざまな選択肢の中から、最も現実的かつ本人が納得できる行動方針を選びます。あくまで本人が「やる」と決めることが重要で、指示ではなく自発的なコミットメントを引き出すことがポイントです。
6.実行支援:計画に基づいた行動を促し、定期的に進捗状況を確認します。達成できていれば承認と称賛を行い、うまくいかない場合は原因分析と再計画を支援します。できないことや失敗を責めるのではなく、成長の機会として前向きに扱う姿勢が大切です。
7.振り返り・フィードバック:コーチングを終えたら、目標達成の有無だけでなく、その過程での学びや気づきを整理します。成功体験を積み重ねることで自己効力感が高まり、今後の行動にも好影響を与えられます。
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まとめ
コーチングについて、概要や導入のメリット、押さえておくべきポイント、進め方について詳しく解説しました。 コーチングはうまく活用すれば部下の自主性向上、成長の促進につながる効果的なアプローチ手法です 。
ただし効果的に活用するには企業や上司、育成担当者自身もコーチングの特徴とコツを理解しておくことも欠かせません。自社に必要な人材を効率的に育成するために、コーチング知識とスキルの習得を目指しましょう。

