課題発見力とは
課題発見力の基本は次のとおりです。課題発見力は、あらゆるビジネスシーンで必要とされるスキルです。まずは、課題の種類や課題発見力の定義をくわしく解説します。
- ・課題には発生型、設定型、潜在型の3種類がある
- ・課題発見力とは現状を分析し、課題を明らかにするスキル
- ・課題発見力と課題解決力はスキルを発揮するシチュエーションが異なる
そもそも課題とは
ビジネスにおける課題には、次の3種類があります。
- ・発生型
- ・設定型
- ・潜在型
課題発見力の定義
課題発見力とは現状を分析し、課題を明らかにするスキルです。主体性を持って課題を見つけ出す力は、社会人に欠かせない能力の1つといえるでしょう。たとえ現状に大きな問題がなくても、改善できる点がないかを探すことは、業務の効率化や生産性の向上につながります。
課題発見力と課題解決力の違い
課題発見力と似ている言葉に「課題解決力」がありますが、それぞれスキルを発揮するシチュエーションが異なります。上述したとおり、課題発見力とは現状を分析し、課題を明らかにするスキルです。一方、課題解決力はすでに発生し、顕在化している課題を解消するスキルです。
課題解決力は「問題点が明らかになったトラブルの解消」、課題発見力は「将来的な問題点の発見」に特化しており、課題への向き合い方が異なります。
課題発見力が求められる背景
課題発見力が求められる背景として、次の4つが挙げられます。課題発見力は管理職だけではなく、すべての従業員が高めておくべきスキルです。
- ・環境の変化に迅速に対応するため
- ・多様化するニーズに応えるため
- ・イノベーションの重要性が高まっているため
- ・社会人が身につけるべき基礎力であるため
ビジネス環境の変化が早い
緊迫化する国際情勢やインフレの加速、技術革新をはじめ、ビジネス環境は急激に変化しています。消費者のニーズも刻々と変わっているため、これまでは自然に受け入れられていたものが、ある日を境に通用しなくなるケースも増えています。将来の予測が困難なVUCA時代において、成功体験にしがみつくのではなく、最適解を求めて行動し続ける姿勢が求められています。
価値観の多様化で課題が増えた
価値観の多様化によって、ビジネスにおける課題が増加したことも、課題発見力が重視される背景の1つです。「大量消費大量生産」はすでに過去のものになり、消費者のニーズに合わせた戦略が不可欠となっています。従来の考えに固執せず、柔軟な発想を持つことで、表面化していない課題を見つけやすくなります。
イノベーションが必要となった
ビジネスシーンにおいて、これまで以上にイノベーションの重要性が高まっています。企業が市場競争に勝ち抜くためには、新しい発想で価値ある商品やサービスを提供しなければなりません。 現状に満足せず、自社の課題を発見することが、革新的なアイデアの創出につながります。
社会人基礎力の1つである
課題発見力は、社会人基礎力の1つです。2006年に経済産業省によって提唱された社会人基礎力は、3つの能力と12の能力要素で構成されています。
| 能力 | 能力要素 |
| 前に踏み出す力 (アクション) | 主体性 |
| 働きかけ力 | |
| 実行力 | |
| 考え抜く力 (シンキング) | 課題発見力 |
| 計画力 | |
| 創造力 | |
| チームで働く力 (チームワーク) | 発信力 |
| 傾聴力 | |
| 柔軟性 | |
| 情況把握力 | |
| 規律性 | |
| ストレスコントロール力 |
※参考:社会人基礎力|経済産業省
課題発見力の向上に必要なスキル
課題発見力は組織や部署、個々の社員が抱える課題に気づく重要な能力です。課題発見力を向上するためには、社員のスキルを鍛えるのが効果的です。ここでは、どのようなスキルが必要になるのか紹介します。
観察力
課題発見力を高めるために重要な「観察力」とは、日常業務の中での違和感や変化、兆候に敏感になる力です。社員が観察力を養うことで、潜在的な問題を早期に捉えることができます。具体的には、次の方法により観察力を高めることが可能です。
・観察と記録を習慣化する
・「なぜ?」を繰り返し、自分の感じた違和感を深掘りする(5 Whys)
・他部署の視点で業務を見直す(クロスレビュー)
・定期的に業務フローを振り返る時間を設ける
・チームでの気づき共有ミーティングを実施する
これらの実践を続けることで、社員の視野が広がり、日常に隠れた課題に気づけるようになります。
論理的思考力
課題発見力を高めるには、論理的思考力の強化が不可欠です。論理的思考力とは、物事の因果関係を整理し、根拠に基づいて問題の本質を見抜く力です。感覚や経験に頼らず、筋道立てて考えることで、真の課題にたどり着く力が養われます。
・MECE(漏れなく・ダブりなく)で情報を整理する
・ロジックツリーで原因を分解・可視化する
・5W1Hで状況を具体的に分析する
・フレームワーク(3CやSWOTなど)を活用する
・データをもとに仮説を立て、検証する
こうした思考法を日常業務に取り入れることで、表面的な問題発見にとどまらず、根本的な課題の発見につながります。
課題発見のための手順
課題を発見するには、フレームワークを活用すると思考が整理されて潜在的な課題が掴みやすくなります。今回紹介するのは、理想と現実から分析を行う「As is/To be」のフレームワークを使った手順です。フレームワークにはさまざまな種類があるので、目的に合わせて使い分けましょう。
- ・理想を思い浮かべる
- ・現状を分析する
- ・現状と理想のギャップを見つける
理想をイメージする
課題発見のためには、まず理想をイメージするところからはじめます。営業部門であれば「毎月1,000万円の利益を上げる」、マーケティング部門であれば「企業の認知度が10%アップする」などが、理想の姿となります。現状に不満がない場合でも「こうだったらいいな」という姿を想像することで、具体的なイメージが湧いてきます。
現状を軸にありたい姿を考える
続いて、現状を軸にありたい姿を考えます。現状を維持することで、理想の姿に到達できるかを想像しましょう。到達できないと考えられるなら、次のステップで解決策を検討します。
現状と理想の差を理解する
現状と理想の差を理解することで、課題が明らかになります。現状を続けても理想に到達できない場合は、原因を分析します。先ほどの例を挙げると「毎月1,000万円の利益を上げるためには人員が足りない」「従来の広告では認知度の向上が見込めない」などが原因となります。現状と理想のギャップを見つけることが課題の発見につながります。
課題発見力を高める考え方
課題発見力を高める考え方には、次の4つがあります。少し意識するだけで大幅なスキルアップが目指せます。
- ・既存の枠組みや決まりに固執しない
- ・課題を指摘するだけの人にならない
- ・主観を切り離して物事を捉える
- ・未来志向を重視する
ゼロベース思考を意識する
ゼロベース思考を意識することは、課題発見力の向上に役立ちます。ゼロベース思考とは、既存の枠組みや決まりに固執しない考え方のことです。自分の経験や企業の価値観に基づいて考えるのではなく、ビジネスのルールを根底からひっくり返すことで、新しいアイデアが創出できるケースがあります。
評論家になることを避ける
課題発見力を高めるためには、評論家にならないよう注意しなければなりません。ここでの評論家とは「課題を指摘するだけの人」「新しい考え方に批判的な人」を意味します。課題が顕在化してから批評するだけでは、課題発見力の向上にはなりません。不明確な課題に関しても先回りして対策を講じ、解決策を検討することが大切です。
クリティカルシンキングを活用する
課題発見にはクリティカルシンキングも有効です。クリティカルシンキングとは、直訳すると批判的思考となり、ビジネスシーンでは「前提や根拠を疑うことで物事の本質を掴むこと」を表します。クリティカルシンキングでは、客観的視点で主観を切り離して考えるため、本質的な課題を発見しやすくなります。
現状を未来志向で捉える
未来志向とは、現在よりも未来に重きを置く考え方です。将来を見据えて行動することで、課題の早期発見などが期待できます。未来志向では、常に未来に意識を向け、現状を当たり前と考えないことが重要です。現状に問題意識を持つことで、将来に向けた積極的な行動がとりやすくなります。
課題発見の注意点
課題発見では問題点を見つけるだけでなく、改善本法を考えることが重要です。見つけるだけで終わらせてしまうと、企業の成長に役立ちません。上述した批評家にならないためにも、 課題の発見と改善策の提示をセットで考えることを心がけましょう。 改善策が浮かばないときは、周囲に相談することで、解決の糸口を掴める可能性があります。
課題発見力が高い人の特徴
課題発見力が高い人には、次の特徴があります。課題発見力が高い人の思考や行動を意識し、真似ることで、スキルの向上が期待できます。
- ・物事を疑問視できる
- ・データや事実にもとづく分析が得意
- ・現状に満足せず改善点を見つけられる
物事に疑問を持てる
課題発見力が高い人は、たとえ業務が滞りなく進んでいても、「本当に最善の方法なのか」「このまま続けると不具合が発生するリスクはないか」など、現状に満足せず、今よりもよい状態を目指そうとします。このように、物事に疑問を持ち、立ち止まって考えることができれば、表面上は見えていない潜在的な課題を発見しやすくなります。
データや事実から分析できる
課題発見力が高い人は、データや事実に基づく客観的な分析を得意とします。たとえば「特定のエリアだけ売上高が極端に低い」という事実がわかったとします。
課題発見力が高い人は「あのエリアは競合の本社があるから仕方がない」と諦めません。「エリア内のA店だけは平均以上の売上高がある」などの情報を探し出し、効率的な解決策を模索します。データや事実を分析し、ロジカルに課題を洗い出すことで、より効果的なアプローチを実現することが可能です。
改善点を見つけられる
現状を分析し課題や目的を明らかにし、前向きに改善を見つけられるのも、課題発見力が高い人の特徴です。 改善を追い求め続けることで、少しずつ物事は前進します。しかし、課題に対するアプローチがいつも正しいとは限りません。
「業務フローを変更したが、以前の方がスムーズだった」といった失敗は、少なからずあります。そのようなときも、失敗から学び、次に生かすことで継続的な成長が目指せます。
社員の課題発見力を向上させる方法
社員の課題発見力を向上させるには、企業側からの働きかけが効果的な場合もあります。課題発見力向上に効果的な方法を2つ紹介します。
リフレクション(振り返り)の習慣化
社員の課題発見力を向上させる方法として「リフレクション(振り返り)の習慣化」は非常に有効です。リフレクションとは、日々の業務や経験を振り返り、自分の行動や結果を客観的に見つめ直すプロセスです。この習慣を取り入れることで、目の前の業務に追われるだけでなく、改善点や隠れた課題に気づく力が養われます。リフレクションが課題発見力を高められる理由として、次のポイントがあります。
・経験や体験を内省することで、成功や失敗の要因を明確にできる
・問題点を社員自らが発見し、次にに活かす視点が育成できる
・チームや組織全体の改善提案につながる
これらの点を踏まえて、次の方法でリフレクションを実践するとより効果的です。
| 実践方法 | 実施内容 |
| 振り返りシートの記入 | 日報や週報で「できたこと」「改善点」「次回の工夫」などを記入する |
| 1on1ミーティング | 上司との対話を通じて、内省を促進しフィードバックを受ける |
| KPT法の活用 | Keep(良かったこと)、Problem(問題点)、Try(次に試すこと)で整理 |
| チームで共有する時間を設ける | チーム単位で振り返りを行い、他者の視点から新たな課題に気づく |
リフレクションを個人・チームレベルで継続的に行うことで、社員は自らの行動や業務のプロセスに対する洞察を深め、主体的に課題を発見・改善する力を育めます。
フレームワークを使った思考訓練
社員の課題発見力を高めるうえで、フレームワークを活用した思考訓練は非常に有効です。フレームワークとは、情報を整理し論点や本質を明確にするための「思考の型」のことを指し、複雑な課題を構造的に捉える助けとなります。思考訓練を通じて社員は物事を俯瞰的かつ論理的に分析し、課題の本質を見極める力を身につけることができます。課題発見力向上につながるフレームワークとして、次のものがおすすめです。
| フレームワーク | 特徴と活用例 |
| ロジックツリー | 問題を階層的に分解し、原因を洗い出す。 【例:売上減少 → 商品力・販路・価格などに分解】 |
| 5W1H | 誰が・いつ・どこで・何を・なぜ・どのように を問うことで状況を整理 |
| SWOT分析 | 強み・弱み・機会・脅威から課題と戦略を明確化 |
| KPT法 | 継続すべきこと・課題・次に試すことを分類し、行動計画を立案 |
| マトリクス分析 | 優先度や影響度の観点で要素をマッピングし、重要課題を可視化 |
実際の思考訓練を行う方法の例も紹介します。
・毎週のミーティングで1つのフレームワークを使った演習を行う
・実案件を題材にワークショップ形式で分析を行う
・上司や同僚と一緒にフレームワークを使いながら意見交換をする
・振り返り時にKPTやロジックツリーを用いて分析を深める
社員が日常的にフレームワークを活用しながら思考を鍛えることで、複雑な情報の中から本質的な課題を抽出する力が高まり、組織全体の課題解決力の底上げにつながります。
まとめ
目まぐるしく変化する社会や多様な価値観に対応するには、従業員全員が意識的に高い課題発見力を身につけていく必要があります。
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