コミットメントの定義
「コミットメント」とは、「約束・契約・承認・宣言・責任」などを意味する言葉です。「コミットメントする」という言葉を使用する場合は、「責任を持って関与する」という意味になります。
同じ「約束」という意味を持つ言葉に「プロミス」がありますが、使い方が異なります。プロミスはどちらかというとカジュアルなテイストで使われる言葉です。 「コミットメント」は、責任の重さを強調して伝える際に用いられるため、ビジネスで使用する言葉としては、「コミットメント」が適しています。
業界や学術分野におけるコミットメント
業界や学術分野によっては、コミットメントが独特の意味合いで使われます。業界や学術分野におけるコミットメントについて解説します。
金融業
「銀行融資枠」とも呼ばれる「コミットメントライン」とは、一定の融資枠や金利などの条件を設けた上で、顧客の請求に応じて融資する契約のことです。 条件内の融資であれば審査の手間を省略できるため、コミットメントラインではスピーディーな融資が可能になります。
心理学
心理学には「コミットメント効果」という言葉があります。コミットメント効果とは、目標を周囲に宣言すると目標達成率が高まる現象のことです。目標を口に出すと、目標を強く意識できます。また、周囲の期待に応えたい気持ちから、目標達成に向け努力できるようになります。
経済学
経済学の「コミットメント」とは、顧客に特定の行動を促す仕組みのことです。例えば、家電量販店などに見られる「最低価格保証」は、コミットメントの1つです。現時点でこれ以上安い価格で買える店舗はないと理解した顧客は、最低価格保証を提示する店舗で購入するようになります。
コミットメントと似ている用語
コミットメントは目標達成に向けて関り、成果を約束することです。ビジネスシーンではコミットメントと似た言葉や近い意味を持つ言葉もあるため、どのような意味の違いがあるかを解説します。
・モチベーション
モチベーションとは、行動を起こす際の内的な動機や意欲を指し、「やりたい」「達成したい」といった気持ちの強さを表します。一方でコミットメントは、組織や目標に対する責任感や心理的な結びつきを意味し、「やり遂げる」「組織に貢献する」といった意志の継続性を含みます。このことからモチベーションは状況や感情に左右されやすく、一時的な高まりが特徴である一方、コミットメントはより長期的・安定的な関係性を示す点が違いといえるでしょう。つまりモチベーションは「行動のきっかけ」、コミットメントは「行動の持続力」を意味します。
・リソースコミットメント
リソースコミットメントとは、ヒト・モノ・カネ・時間などの経営資源を、特定のプロジェクトや事業に対して明確に配分・投入する意思決定を指します。これは経営上の投資判断や戦略的選択に関わる概念です。一方の一般的なコミットメントは、個人や組織が目標や価値に対して心理的・行動的に強く関与し、責任を持って取り組む姿勢を表します。違いとして、リソースコミットメントは「資源の配分」に焦点を当てた客観的・経営的判断であるのに対し、コミットメントは「意志や姿勢」といった主観的・感情的な関与を示す点が挙げられます。
ビジネスシーンにおけるコミットメントの使い方
ビジネスシーンにおけるコミットメントの使い方を、2種類の例文とともに解説します。
【約束・契約・承認など】コミットメントの例文
「約束・契約・承認」を意味するコミットメントの例文は、下記の通りです。
- ・役員のコミットメントをもらわないと、プロジェクトが先に進まない
- ・他部門のやり方に口を出すとは、オーバーコミットメントではないか
- ・我が部門は、パブリックコミットメントとして「前年度比で経費を5%削減する」と宣言した
- ・我が社のサイトでは、トップページに「事業で培った技術を通じてサステナブルな社会に貢献する」というトップコミットメントを掲げている
オーバーコミットメントは、自分の担当の範囲を超えて介入したり、他人に余計な指示をしたりする、いわゆる越権行為を意味します。パブリックコミットメントとは、自分の目標を周りに宣言することで、モチベーションが向上し、目標達成率が上がるという心理学を用いた方法です。トップコミットメントとは、企業トップの所信表明です。トップコミットメントでは、主に環境問題や社会貢献に関する内容が語られます。
【責任を持って関与する】コミットメントの例文
「責任を持って関与する」を意味するコミットメントの例文は、下記の通りです。
- ・このプロジェクトには、○○氏の積極的なコミットメントが欠かせない
- ・改革の実現に向けてコミットする
- ・無駄な会議にならないように、全力でコミットメントしてほしい
「コミットメントする」「コミットする」といったように、コミットメントは動詞として使われる場合もあります。
組織コミットメントの定義と3つの構成要素
組織コミットメントとは、従業員が組織にコミットメントしている度合いのことです。個人の価値観はさまざまであり、組織コミットメントが高い従業員同士でも、企業に貢献する理由が同じとは限りません。
この段落では、組織コミットメントを構成する、3つのコミットメントについて解説します。それぞれのコミットメントに至る理由を確認していきましょう。
1.存続的コミットメント
存続的コミットメントは、組織から受けとる報酬や待遇を目的としたコミットメントです。 存続的コミットメントが高い従業員は、高報酬・好待遇ばかりのように思われますが、必ずしもそうとは限りません。報酬や待遇に満足していなくても、今より好条件の転職先は見つからないだろう、働かなければ生活できなくなるなど、ネガティブな理由で会社に残っているケースもあります。存続的コミットメントが高い従業員は、好条件の企業に魅力を感じ、転職する可能性があります。
2.情緒的コミットメント
情緒的コミットメントは、従業員の気持ちに関するコミットメントです。居心地がいい、従業員同士うまくやれている、と感じる従業員は情緒的コミットメントが高い傾向が見られます。一方、職場環境や仕事内容とのミスマッチがあると、従業員の情緒的コミットメントは低下してしまいやすいのが特徴です。
3.規範的コミットメント
規範的コミットメントは、組織への忠誠心やこれまで受けた恩によって生まれるコミットメントです。規範的コミットメントは、自分の意思ではなく義務的な考え方から発生します。
例えば、他の企業から魅力的な条件でスカウトを受けたときに「転職したいが、自分が辞めたら上司や同僚に迷惑をかけないだろうか」と考える気持ちは、規範的コミットメントから発生しています。なお、規範的コミットメントが高い従業員は組織の指示に積極的に従いますが、主体的な行動は控えめです。
従業員の組織コミットメントを高める6つの方法
従業員の組織コミットメントを高める6つの方法を解説します。多角的なアプローチで組織コミットメントを高めましょう。
1.能力・個性・キャリアプランを反映して業務を割り振る
従業員1人ひとりの能力・個性・キャリアプランを考慮し、マッチする業務を与えると、情緒的コミットメントが高まります。 資格やスキルを活かしたい、人間関係を重視したい、キャリアアップしたいなど仕事に関する思いは人それぞれです。また、従業員ごとに能力や性格も異なります。
個々の能力や適性に合った業務を割り振るには、日頃から従業員の様子を観察し、面談などでコミュニケーションを取ることが不可欠です。個人を深く知るほど、マッチする業務が見えてくるでしょう。
2.風通しのいい職場環境を整える
コミュニケーションを取りやすく、現場の意見が採り上げられやすい環境を整えると、情緒的コミットメントが高まります。ポイントは、以下の2つです。
- ・人間関係のしがらみをなくす
- ・縦方向の人間関係も強化する
まずは、人間関係のしがらみがなく、同僚同士がコミュニケーションを取りやすい環境を整えましょう。職場環境を整える際は、縦方向の風通しも意識してください。
縦方向の風通しがよくなると、規範的コミットメントも高まる可能性があります。大企業では難しいかもしれませんが、組織のトップである経営陣と関わる機会は特に貴重です。経営陣の人となりに触れると、職場への愛社精神、忠誠心が生まれるでしょう。
また、体制を整えるにつれ、徐々に企業力が高まる点にも注目しましょう。人間関係のしがらみがなければ情報共有が進み、価値観の異なる人同士の関わりを通じてアイデアが生まれやすくなります。従業員が忌憚なく発言できるようになると、組織の課題を把握しやすくなります。
職場環境改善には、アンケートが効果的です。現場任せにせず、組織の風土改革につながる人事施策も検討して風通しのいい職場環境を構築してください。
3.公正な人事評価制度を策定する
公正な人事評価制度を整備すると、情緒的コミットメントや存続的コミットメントが高まります。働きぶりを認めてもらえたと感じると、組織に対する愛着が湧き上がるためです。また、企業に貢献するほど高報酬や好待遇を得られると分かれば、働くモチベーションも上がります。
4.柔軟に働ける制度を推進する
リモートワーク制度や時短勤務制度などを取り入れると、情緒的コミットメントや存続的コミットメントが高まります。仕事とプライベートを両立しやすい環境を得られると、従業員は企業に対してポジティブな気持ちを持ちます。また、環境を整備してくれた企業に対して、より忠誠心を高める人も少なくありません。
また、柔軟に働ける制度を促進すると、雇用のチャンスが拡大する点にも注目しましょう。近年、人手不足に悩む企業が増えています。働きやすい環境を整備して、優秀な人材が集まる企業を目指しましょう。
5.福利厚生を充実させる
福利厚生を充実させると、情緒コミットメントや存続的コミットメントが高まります。特定の人のみメリットがある内容では、不満を抱く従業員も出てきます。従業員のニーズをくみ取って、さまざまな福利厚生を充実させましょう。福利厚生制度の一例は、下記の通りです。
- ・通勤手当
- ・住宅手当
- ・資格取得推奨制度
- ・有給休暇制度
- ・育児介護休暇制度
- ・各種ボーナス制度
- ・社員食堂
- ・社内託児所
6.企業理念や事業方針を共有する
企業理念や事業方針を共有し、従業員に浸透させましょう。「この企業で働き続けたい」という気持ちが生まれると、組織に一体感が生まれ、情緒的コミットメントが高まります。魅力的な報酬や待遇は他の企業でも得られるかもしれませんが、企業理念や事業方針に共感できる企業は多くありません。 また、企業の方向性を理解できている従業員は、主体的な行動ができるようになります。働きぶりを正当に評価してもらえれば存続的コミットメントが高まり、忠誠心や恩義が高まると規範的コミットメントも高まります。つまり、企業理念や事業方針の共有は、効果的に組織コミットメントを高めるために必要不可欠です。 集会などで定期的に発信したり、行動規範にも落とし込んだりすると、従業員に企業理念や事業方針を伝えられます。積極的に発信を行い、企業のあり方を従業員に浸透させましょう。
まとめ
コミットメントという言葉は、今やビジネスシーンでは日常的に使われるほど広く認知されるようになりました。一方で、類似する言葉や似た意味を持つ言葉もビジネスシーンで使われており、きちんと用途と意味を理解して使用することができるビジネスパーソンとして大切なポイントです。