管理職が資格を取得するメリット
管理職は職場で多くの部下をマネジメントする立場にあることから、高度な専門知識と経営の視点を持って働く必要があります。 そのため、管理職にとって資格を取得することは多くのメリットがあります。
専門性が証明されることで信頼性が高まる
管理職が資格を取得することは、自身の専門性や知識を客観的に証明する手段となります。部下や他部署、外部の関係者と関わる場面で、資格があることで「信頼できる」「知識に裏付けがある」といった印象を与えることができ、指導や判断に対する説得力が増します。また自身の業務だけでなく、部下が関わる専門的な業務内容への理解が深まり、より適切なマネジメントやアドバイスができるようになる点もメリットです。特に経営・会計・法務・人事・労務などの分野に関する資格は、管理職としての幅広い視野と判断力を支える基盤にもなります。
自己研鑽による成長意欲を示せる
資格取得は、管理職自身の成長意欲や学ぶ姿勢を社内に示す好機でもあります。組織においては管理職の姿勢が部下に大きな影響を与えるため、自ら学びを継続する姿を見せることは模範となり、チーム全体のモチベーション向上にもつながります。また常に変化するビジネス環境において、新しい知識を自発的に取り入れることは、柔軟性のあるリーダーとしての評価にもつながる要素です。資格取得を通じて、自分自身の能力を再確認し、視野を広げるきっかけにもなるため、管理職としての成長を促進する有効な手段といえるでしょう。
キャリアの選択肢や将来性が広がる
管理職が資格を取得することで、今後のキャリアの選択肢や可能性が広がるメリットもあります。 たとえば専門資格を持つことで、異動や昇格、役職の幅が広がり、他部門やグループ会社への転籍、経営層への登用などのチャンスが増える可能性があります。また転職を検討する場合にも、管理経験と資格を組み合わせた実績は他社からの評価にもプラスされやすいのが大きなメリットです。社内外問わず自身の市場価値を高める手段として、資格の存在は武器になります。加えて資格があることで自信を持って職務に臨むことができ、意思決定や部下の指導にも好影響を与えるのが利点です。
資格の取得手順
管理職が資格を取得する際の具体的な手順について、3つのステップで紹介します。
目的を明確化して適切な資格を選定する
最初のステップは、資格取得の目的を明確にし、自分に適した資格を選定することです。なぜ資格を取りたいのかという動機を明らかにすることで、途中で挫折しにくくなります。たとえば専門知識を強化したい、業務の幅を広げたい、部下の育成に役立てたい、キャリアアップの準備など、目的を明確化しておけば必要な資格もはっきりするからです。また 管理職としての職務内容や、業界特性に合った資格を選ぶことも重要です。 人事分野であれば「社会保険労務士」や「キャリアコンサルタント」、経営分野であれば「中小企業診断士」や「MBA」、プロジェクト管理なら「PMP」などがあります。今後のキャリアビジョンを踏まえて、どの資格が自分の成長や業務に貢献するかを見極めることで、効果的な学習計画を立てやすくなります。さらに取得までの必要期間や難易度、費用、試験日程なども事前に調査し、無理のないスケジュール設計を心がけることが大切です。
学習計画を立てて継続的に取り組む
資格取得を目指す上で重要なのが、具体的かつ現実的な学習計画を立てることです。管理職は多忙な中で勉強時間を確保しなければならないため、無理のないスケジュールを組み、日々の業務と両立できるよう工夫が必要です。たとえば1日30分~1時間の学習時間を平日に設け、週末は勉強時間を十分に確保して復習や模擬試験に取り組むなど、短時間でも継続的に取り組む姿勢が合格への鍵となります。またスキマ時間の活用やオンライン講座・音声学習などを活用することで、効率的に知識を習得することも可能です。さらにモチベーションを保つために、目標スケジュールを見える化する、学習記録を残す、同じ目的を持つ受講生のいる教室を利用するといった工夫も効果的です。特に管理職は周囲への影響力が大きいため、学習の姿勢自体が職場の風土に良い影響を与えることも期待できます。
試験への挑戦と実務への応用を意識する
学習を重ねた後は、試験に挑戦する段階に入ります。試験前には過去問演習や模擬試験に集中し、自信を持って本番に臨めるよう準備を整えましょう。合格した後は、単なる「資格取得」で終わらせず、実務での活用を意識することが非常に重要です。たとえば資格で学んだ知識をもとに業務改善の提案を行ったり、部下の指導に取り入れたりすることで、資格の価値を実際の職務に還元できます。また知識のアップデートや関連スキルの習得を継続し、自分自身の専門性をさらに高めることも管理職としての信頼や影響力につながります。知識を定着させて理解を深めるために社内研修の講師を務めたり、チーム内で学んだ内容を共有したりするなど、学びを組織全体に広げることも管理職ならではの役割です。資格取得はゴールではなく、新たなスタートとして捉えることが真の成長に結びつきます。
管理職におすすめな資格12選
管理職が取得するのにおすすめな資格を12種類紹介します。
・社会保険労務士
・メンタルヘルス・マネジメント検定
・ビジネスマネジャー検定
・中小企業診断士
・経営学修士号(MBA)
・ITストラテジスト
・簿記検定(日商簿記)2級
・ビジネスコンプライアンス検定
・個人情報保護士
・FASS
・MOS
・文書情報管理士
【人事・労務】系の主なおすすめ資格2選
人事・労務系の管理職におすすめの資格は次の2つです。
・社会保険労務士
・メンタルヘルス・マネジメント検定
社会保険労務士
社会保険労務士(社労士)は、労働・社会保険に関する法律や制度に基づき、企業の人事・労務管理、労働法令の遵守、社会保険手続きなどを専門的に扱う国家資格です。主な業務には、就業規則の作成、労働時間管理、労務トラブル対応、社会保険や年金の手続きなどが含まれます。企業活動に直結する分野を扱うため、法令知識と実務対応力が求められます。管理職が社労士資格を取得することで、組織の人事・労務に関する理解が深まり、部下への適切な指導や職場トラブルの予防、働きやすい環境づくりに貢献できるというメリットがあります。また法改正や社会制度の変化に迅速に対応できる知識が身につき、経営層や人事部門との連携強化にもつながります。さらに労務面のリスク管理ができる管理職として、組織内での信頼や影響力が高まる点も大きなメリットです。将来的な面では人事・総務系の幹部候補としてのキャリア形成にも有利な資格といえるでしょう。
メンタルヘルス・マネジメント検定
メンタルヘルス・マネジメント検定は、職場におけるメンタルヘルス対策に関する正しい知識と実践的な対応力を身につけることを目的とした民間資格で、大阪商工会議所が主催しています。 検定はI種(マスターコース)、II種(ラインケアコース)、III種(セルフケアコース)の3段階に分かれており、管理職以上の方にはII種の取得が推奨されます。管理職には、部下のメンタル不調の早期発見・対応・予防に関する知識とマネジメント力が求められるためです。管理職がメンタルヘルス・マネジメント検定を取得することで、職場のメンタルヘルスに関する正しい理解を持ち、部下の変化に気づきやすくなり、適切な対応が可能になります。さらに相談しやすい環境づくりやストレスの少ない職場づくりを意識するきっかけとなり、チーム全体の生産性やエンゲージメント向上にもつながります。メンタルヘルスへの配慮は企業のリスクマネジメントの一環でもあり、休職や離職を未然に防ぐ意味でも、管理職がこの資格を持つことは非常に高い価値があります。
【実務・マネジメント】系の主なおすすめ資格5選
実務・マネジメント系の管理職におすすめの資格は次の5つです。
・ビジネスマネジャー検定
・中小企業診断士
・経営学修士号(MBA)
・ITストラテジスト
・簿記検定(日商簿記)2級
ビジネスマネジャー検定
ビジネスマネジャー検定は東京商工会議所が主催する民間資格で、企業や組織における管理職(マネジャー)に必要な知識やスキルを体系的に学べる検定試験です。マネジメントの基本から人材育成、業績管理、労務管理、リスクマネジメントまで、幅広いテーマがカバーされており、実務で求められるマネジメント力の土台を固めるのに適した内容となっています。ビジネスマネジャー検定の強みは特定業界に限定されないため、業種・業界を問わず活用しやすい汎用性の高さにあります。管理職がこの検定を取得することで、マネジメントの基礎を理論と実務の両面から体系的に学べるため、実際の職務に即した判断力・対応力が身につきます。またチーム運営や人材育成、業績向上に必要な知識を整理できることで、自信を持ってマネジメント業務に取り組めるようになります。さらに資格取得を通じて学習意欲の高い姿勢を周囲に示すことができ、部下の模範としての信頼感や影響力の向上にもつながる点もマネジメントをするうえで大きなメリットです。
中小企業診断士
中小企業診断士は経済産業省が認定する国家資格で、経営全般に関する知識と実践的なコンサルティング能力を備えた中小企業向けの経営支援の専門家です。試験範囲は経営戦略、財務・会計、マーケティング、人事労務、法務、生産管理など幅広く、経営に関わる総合的な力が問われます。企業の経営改善や成長支援を行う際に活躍できる専門性の高い資格であり 、近年では企業内で活躍する「社内診断士」も増加傾向です。管理職が中小企業診断士の資格を取得することで、組織全体を俯瞰する力や経営視点での判断力が身につき、戦略的なマネジメントが可能になります。また財務や組織管理、マーケティングなど多様な分野の知識を実務に活かすことで、部門の課題解決や業績向上に貢献する能力を高められる点も資格の強みです。さらに外部の視点から組織を見る訓練を積むことで、部下育成や他部門との連携にも好影響を与えることができます。将来の幹部候補や経営層を目指す管理職にとって、大きな武器となる資格です。
経営学修士号(MBA)
MBA(経営学修士号:Master of Business Administration)は、経営に関する知識と実践的スキルを体系的に学ぶ大学院レベルの学位です。MBAでは経営戦略・財務・マーケティング・組織論・リーダーシップなど、経営に必要な幅広い分野の知識を習得できます。国内外のビジネススクールで取得可能であり、近年では働きながら通える社会人向けMBAプログラムも増えています。単なる学術知識だけでなく、実際のビジネス課題を題材にしたケーススタディやディスカッションを通じて実務能力を高められる点が資格の特徴です。管理職がMBAを取得することで、経営視点での判断力や戦略的思考が身につき、組織全体を俯瞰して行動できるようになります。また数値管理や人材マネジメント、イノベーション推進など、上位職に求められるスキルが強化され、経営層との対話や意思決定にも自信を持って臨めるようになります。さらにMBA取得者との人脈形成や多様な価値観に触れることで視野が広がり、組織改革の旗振り役として推進力を高めることもできるでしょう。
ITストラテジスト
ITストラテジストは、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が主催する情報処理技術者試験(高度区分)のひとつで、ITを活用した経営戦略の立案や情報システムの企画・提案を担う高度IT人材に求められる国家資格です。単なるITスキルで終わるのではなく、経営戦略・業務改革・システム企画・投資評価など、経営とITの橋渡しができる専門性が問われます。企業の中長期的なビジネス成長を支援する立場で、上流工程における意思決定能力が求められる点が特徴です。管理職がITストラテジストを取得することで、経営視点とIT戦略の双方を理解し、企業全体のDX(デジタル変革)や業務効率化を推進できる能力が高まります。これにより部門横断的なプロジェクトの推進や、システム導入の意思決定において説得力ある提案や判断が可能になる点がメリットです。また有資格者はIT部門と非IT部門との橋渡し役としての役割を果たすことができ、組織全体の合意形成や連携強化にも貢献できます。将来的にCIOや経営層を目指す管理職にとって、キャリア形成につながる資格といえるでしょう。
簿記検定(日商簿記)2級
日商簿記2級は、日本商工会議所が主催する簿記検定の中級レベルの資格で、企業の財務諸表を読み解き、仕訳や会計処理を実践的に行えるスキルを証明するものです。商業簿記に加えて製造業で用いられる工業簿記も学ぶため、より幅広い業種に対応した会計知識が身につきます。管理職が簿記2級を取得することで、損益計算書や貸借対照表といった財務諸表の構造や意味を正しく理解し、経営数値を基にした判断ができるようになります。また予算管理やコスト意識を持った業務運営ができるため、現場の効率化や収益性の向上にも貢献でき、キャリア形成の武器となるでしょう。さらに財務担当者や経理部門との連携も円滑になり、数字に強い管理職としての信頼性や説得力が高まる点も大きなメリットです。経営に直結する基本的な「お金の流れ」を理解する力が身につけられ、あらゆる管理職にとって重要なスキルといえます。
【法務】系の主なおすすめ資格2選
法務系の管理職におすすめの資格は次の2つです。
・ビジネスコンプライアンス検定
・個人情報保護士
ビジネスコンプライアンス検定
ビジネスコンプライアンス検定は、サーティファイコンプライアンス検定が主催する民間資格で、企業活動における法令遵守(コンプライアンス)に関する実践的な知識を身につけることを目的とした検定試験です。内容は労働法・独占禁止法・個人情報保護法・会社法など、企業で働くうえで必要な法律や倫理に関する知識が幅広く出題されます。初級・上級の2区分があり、組織での役割や実務レベルに応じて選択可能です。管理職がこの資格を取得することで、職場の法令遵守に対する意識が高まり、リスク回避力やトラブル防止力が向上します。特にパワハラ・セクハラの未然防止、労務管理、情報漏洩対策など、部下を持つ立場として重要な場面での判断力が磨かれることが大きなメリットです。また社内の模範となる行動をとることで、コンプライアンス意識をチーム全体に浸透させ、健全な組織風土づくりにも貢献できます。信頼される管理職としての基盤を強化するうえで、有効な資格といえるでしょう。
個人情報保護士
個人情報保護士は一般財団法人全日本情報学習振興協会が認定する民間資格で、個人情報保護法を中心とした法令やガイドライン、情報セキュリティ対策に関する実践的な知識を習得していることを証明する資格です。特に企業や団体における個人情報の適切な取り扱いと、管理体制の構築に必要な知識が求められます。試験では個人情報保護に関する法的理解と、組織としての対応策・管理体制・社内教育などの実務対応力が問われます。管理職がこの資格を取得することで、組織における情報管理のリスクを正しく理解し、実務での誤った対応を未然に防ぐ力が高まります。近年、個人情報漏洩による企業の信用失墜や法的責任が重くなっている中で、管理職自身がリスクの所在を把握し、部下に対しても適切な指導・教育ができることは非常に重要です。また情報管理に対する高い意識を示すことで、社内外からの信頼を得やすくなり、健全な組織運営にも寄与できます。情報リテラシーの強化は、現代の管理職にとって不可欠な資質といえるでしょう。
【経理】系の主なおすすめ資格3選
経理系の管理職におすすめの資格は次の3つです。 ・FASS ・MOS ・文書情報管理士
FASS
FASS(Finance and Accounting Skill Standard)は、経済産業省の支援を受けて開発された、経理・財務分野の実務スキルを評価する民間資格です。日本CFO協会が運営しており「資産」「決算」「税務」「資金」の4領域における実務能力を測定します。試験はCBT(コンピュータ試験)形式で、得点によってA~Eの5段階評価がされ、実務でどのレベルにあるかを客観的に示す指標として有用です。管理職がFASSを取得することで、経理・財務の実務における正確な知識と判断力を身につけ、部門の業務全体を把握・管理する力が高まります。特に予算管理や業績分析、内部統制などを担う立場においては、数字に基づいた経営判断が求められるため、FASSの知識は実務に直結する武器になります。また部下の育成や業務プロセスの改善にも役立ち、業務効率や正確性の向上につながる点もメリットです。さらにFASS取得を通じて管理職自身のスキルアップ意識を示すことは、組織全体の学習風土を高める効果も期待できます。
MOS
MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)は、Microsoft Office製品(Word、Excel、PowerPoint、Outlookなど)の操作スキルを証明する国際資格です。 実技形式の試験で、実務に即した操作能力や活用力が問われるため、単なる知識だけでなく実務レベルのスキルを身につけていることが証明できます。Officeのバージョンごとに資格が分かれており、さらに一般レベルと上級レベル(エキスパート)の2段階の試験に分かれています。管理職がMOSを取得することで、日常業務における資料作成やデータ管理、情報共有の効率が向上し、業務全体の生産性を高めることが可能です。特にExcelやPowerPointのスキルは、部下への指導や報告書・プレゼン資料の質の向上に直結する重要なスキルです。また自らがITリテラシーを高めることで、部下や若手社員との技術的ギャップが縮まり、スムーズな業務連携や教育にもつながります。さらに「学び続ける姿勢」を体現することで、組織内の模範となり、信頼性やリーダーシップの強化にも寄与する実用性の高い資格でもあります。
文書情報管理士
文書情報管理士は公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が認定する民間資格で、紙文書や電子データなどの情報を安全かつ効率的に管理・活用するための知識とスキルを評価する資格です。上級・1級・2級の3段階があり、上級になるほど文書管理に関する戦略的知識やマネジメント力が問われます。対象分野には文書の保存・廃棄・検索・セキュリティ管理・電子化などが含まれ、コンプライアンスや業務効率化にも関わる重要な知識体系です。管理職がこの資格を取得することで、部門内の情報管理体制を整え、紙・電子両方の文書を適切に運用する力が身につきます。これにより業務の属人化を防ぎ、情報共有や引き継ぎの質を高めることにつながります。また文書管理のルールをチーム内に浸透させることで、リスク管理やコンプライアンス強化にも貢献できる点もメリットです。さらに情報の可視化や業務プロセスの整理を通じて、組織全体の業務効率化や意思決定の迅速化にも寄与できる人材となれるでしょう。
まとめ
管理職が資格を取得することのメリット、資格取得に向けた手順、おすすめの資格12選を解説しました。管理職は現場で働くプレイヤーであると同時に、部門やチームをマネジメントする立場でもあります。 高度な専門知識を持つことはもちろん、学び続ける姿勢と知識・経験に基づいた判断力で部下からの信頼を獲得しなければなりません。 今回紹介した管理職向けの資格の取得だけでなく、人の上に立つ人材として成長を続ける姿を示すことで、組織にとって欠かせない人材となることが大切です。

