帰属意識とは何か
帰属意識とは、自分が特定の組織や集団の一員であると感じ、その組織に対して愛着や貢献意欲を持つ意識を指します。
たとえば会社やチーム、地域、学校などに対して「ここに属している」「自分の居場所だ」と感じることが帰属意識です。帰属意識が高い従業員は、組織の目標や価値観を自分事として捉え、積極的に協力しようとする姿勢が強くなります。また職場への愛着が強まることで、離職率の低下やチームワークの向上、モチベーションアップにもつながると言われています。そのため企業にとっての帰属意識とは、高めることで組織の安定や生産性向上に寄与できる重要な要素です。
帰属意識とエンゲージメントの違い
帰属意識とエンゲージメントは、いずれも従業員が組織に対して持つポジティブな感情や態度に関係していますが、その意味とスタンスには違いがあります。まず帰属意識は、従業員が「自分はこの組織の一員である」と感じる意識や愛着を指します。自分の居場所や所属先として会社を受け入れている状態であり、安心感や仲間意識が強まることで組織に長くとどまりたいと考える点が特徴です。一方のエンゲージメントは、単なる所属意識だけでなく、従業員が組織の目標や価値観に共感し、自発的に貢献しようとする意欲や熱意を含みます。自分の仕事に対するやりがいや充実感、挑戦意欲が高い状態を指し、生産性や業績向上に直結する要素とされています。つまり帰属意識は「所属する安心感」、エンゲージメントは「主体的な貢献意欲」と捉えるとわかりやすいでしょう。組織運営の視点からは、両方を高めることで組織の安定と成長が促進されます。
帰属意識を持つことのメリット
従業員が帰属意識を持つことで、企業と従業員の双方にメリットがあります。具体的にどのようなメリットにつながるのか詳しく解説します。
モチベーションの向上
帰属意識が高いと「この組織のために貢献したい」「自分の存在が価値あるものだ」と感じる従業員が増え、日々の業務へのモチベーションが自然と高まります。会社の方針や目標を自分事として捉え、自主的に行動する意欲が生まれるため、パフォーマンスの向上や新たな挑戦への積極性が期待できます。
離職率の低下
帰属意識が高い従業員は、自分が組織の一員であることに安心感や愛着を持ちやすく「長期的に働き続けたい」という意識が強まります。その結果、転職や退職を考えることが少なくなり、離職率の低下につながります。また若手社員の早期離職防止にも効果的で、採用・育成コストの削減や人材の安定確保に寄与する点も大きなメリットです。企業にとって若手人材は会社の未来を支える存在であり、人材の定着が組織力の強化にもつながります。
チームワークの強化
帰属意識が高まることで従業員同士の信頼関係や仲間意識が強まり、自然と協力し合う姿勢が生まれます。
そしてお互いを尊重し共通の目標に向けて連携が取りやすくなるため、チーム内での円滑なコミュニケーションが促進されます。これにより問題解決がスムーズになり、成果や目標達成までのスピード向上につながるでしょう。結果として、チーム全体の生産性やパフォーマンスの向上につながるのが大きなメリットです。
組織全体の改善
従業員の帰属意識が高まれば、自分の属する組織の課題を発見し、より良い形に改善しようとする機運も高まります。帰属意識が高ければ長く働くことを前提として物事を考えるようになり、仲間同士で意見交換もしながら改善策の検討が進みます。会社のことを他人事と捉えるのではなく、自分事として捉えられるからこそ改善に向けた自発性が高まっていくでしょう。
帰属意識が低下するデメリット
従業員の帰属意識が低下することで想定されるデメリットについて、具体的に解説します。
離職率の上昇
帰属意識が低下すると、従業員は「自分はこの組織に必要とされていない」「ここにいる理由が見いだせない」と感じやすくなります。その結果、働くことへの意義や所属することへの安心感を失い、他社への転職や退職を考える動機が強まります。特に若手社員や中堅層はキャリア形成において職場環境を重視する傾向が強く、帰属意識が低いままでは早期離職のリスクが高まりやすいことから注意すべきです。さらに従業員が短期間で入れ替わることにより、採用や教育コストが増加し、組織全体の安定性が損なわれる可能性もあります。人材の定着が難しくなることにより、中長期的な組織成長にも悪影響を及ぼすリスクがある点は大きなデメリットです。
チームワークの低下
帰属意識が低い従業員は、自分と組織や周囲の仲間とのつながりを感じにくくなるため、チーム内での協力意識や責任感が薄れがちです。協力意識や連帯感が薄れると、互いの信頼関係が築けないまま業務を進めることになり、報連相が不足し情報共有や連携がスムーズに行われなくなるおそれがあります。この状態では業務のミスや遅延が発生しやすくなり、結果的にチーム全体のパフォーマンス低下につながる可能性が高いです。それだけでなく、ミスをしても仲間に頼ることができなくなり、孤立感を深める従業員も現れるでしょう。またメンバー同士の関係が希薄化することで孤立感を感じる従業員が増えると、職場全体の雰囲気が悪化するリスクもあります。長期的に見れば、組織力の弱体化を招くデメリットとなります。
モチベーションの低下
帰属意識が薄れると、従業員は組織の目標やビジョンに共感しにくくなり、自分の仕事が組織に貢献している実感を得にくくなります。その結果、日々の業務に対する意欲や達成感が失われて「やらされている感」や惰性で働く姿勢が強まる恐れがあります。さらにモチベーションが低下すると、新しいアイデアの提案や業務改善の意識が薄れ、生産性や業務品質の低下につながる点も注意しなければなりません。モチベーション低下が周囲に波及すれば、職場全体の雰囲気が停滞する悪循環を招くこととなり、離職率の上昇やハラスメントの増加といった問題が発生することもあります。そのため組織としての成長や競争力を維持するうえでも、帰属意識の低下は大きなデメリットとなるでしょう。
帰属意識が低くなる原因
従業員の帰属意識が低下する原因は、さまざまなものがあります。
・上司や仲間とのコミュニケーション不足
・組織のビジョンや方針が十分共有されていない
・評価や成果が正当に認められない
・働きやすい環境が整っていない
・キャリア形成の支援が不十分
上司や仲間とのコミュニケーション不足
職場での日常的なコミュニケーションが不足すると、従業員は孤立感を感じやすくなり、帰属意識が低下します。特に上司からの声かけやフィードバックが少ない場合、自分の仕事が評価されているのか分からず、組織とのつながりが希薄に感じる原因となります。また同僚との雑談やチームミーティングがないと、仲間意識が育まれず、職場を単なる作業場と捉えてしまう従業員が増加しやすいです。解決策として、信頼関係の構築や意見交換の機会を意識的に設けることが重要です。関係性ができていない状態で従業員が自発的に交流するのは難しい面があるため、職場が主導して交流の機会を設けましょう。関係性が深まれば、自然とコミュニケーションも活性化し、従業員同士で報連相ができるようになります。
組織のビジョンや方針が十分共有されていない
組織の目標や理念が従業員に十分に伝わっていない場合、組織の一員としての意識を持ちにくくなり、帰属意識も低下しやすいです。たとえば自分の業務がどのように組織の目標とつながっているのか理解できないと、働く意義や貢献の意味が感じられなくなり帰属意識が薄れます。特にトップダウン型で経営層からの情報発信が少ない組織では、組織としての方針が見えづらく、従業員がビジョンに対して受け身になりがちです。解決策として、経営層からの定期的なメッセージや部門ごとの目標共有の機会が欠かせません。経営層がどのようなビジョンやミッションの下で、何を目標として方針を打ち出しているかを周知することで、従業員との連帯感が生まれ、帰属意識の強化につながるでしょう。
評価や成果が正当に認められない
従業員が努力や成果を正当に評価されないと感じると、組織への不信感が生まれ、帰属意識が低下します。人事評価の基準が曖昧だったり、上司からのフィードバックが少なかったりする場合は「自分は組織に必要とされていないのでは」と感じる原因になります。また特定の人だけが評価される不公平感があると、組織に対する不信感から愛着が薄れ、モチベーション低下にも直結する点も理解すべきです。解決策として、透明性のある評価制度や定期的な面談の実施が重要です。 従業員が働きに応じた成果や評価を認めることで、従業員の間に公平感が広がり、組織への愛着も形成されていくでしょう。
働きやすい環境が整っていない
長時間労働・人間関係の悪化・ハラスメントの放置など、働きづらい環境も帰属意識を低下させる大きな要因です。ストレスが多い職場では従業員は心身ともに疲弊し、職場への愛着や貢献意欲が薄れてしまいます。帰属意識が低下すれば離職率が上昇し、人手不足で労働環境が悪化すれば、さらに帰属意識の低下と離職率の上昇に拍車がかかります。また柔軟な働き方や福利厚生が不十分な場合、働き続けたいという意識が持てません。従業員が安心して働ける環境を整え、現場の悩みや課題、不安といった声を拾い、改善していく取り組みが必要です。
キャリア形成の支援が不十分
従業員が自分の成長や将来のキャリアパスを描けない職場では、帰属意識が低下しやすくなります。従業員に平等なスキルアップの機会が与えられなかったり、昇進・異動の基準が不明確だったりすると、自身の将来に不安を感じ、転職を考えるきっかけになります。組織としてキャリア面談や研修制度を充実させ、一人ひとりの成長を支援する姿勢を見せることが、長期的な帰属意識の向上を目指すうえで重要です。
帰属意識を高める対策
従業員の帰属意識を高めるために、会社が取れる対策を紹介します。
コミュニケーションの活性化
帰属意識を高めるためには、職場内での円滑なコミュニケーションが欠かせません。 上司からの定期的な声かけや面談、同僚同士の意見交換の場を意識的に設けることで、従業員は自分が認められていると実感できます。 また雑談やランチミーティング、チームビルディングイベントの実施も効果的です。チームメンバーとの交流を通して「自分もチームの一員である」という意識が芽生え、帰属意識の強化につながります。それだけでなく従業員の心理的安全性が高まり、信頼関係が築かれることで従業員同士のつながりが強化され、組織への愛着や帰属意識が自然と高まります。
組織のビジョン・方針の明確化と共有
帰属意識を高めるには、組織がどのような方向を目指しているのかを明確に示し、それを従業員にしっかり共有することも重要です。そのために定期的に経営層からのメッセージ発信や全社集会を実施し、組織のミッション・ビジョン・価値観を可視化しましょう。経営層から直接ビジョンや方針を聞くことで、経営層と従業員との距離感が近くなり、組織に対して帰属意識を感じやすくなります。また部門や個人の目標が組織全体の方針とどうつながっているかを説明することで、自分の仕事が組織に貢献している実感が湧き、一体感や帰属意識の向上につながります。従業員が組織を身近に感じ、帰属意識を高めるためにも、経営層が現場まで声を届けられるよう工夫し、従業員の理解を得ていくことが大切です。
公正で透明性のある評価制度の運用
従業員が自分の努力や成果を正当に評価されていると実感することは、帰属意識向上に直結します。そのためには評価基準を明確化し、評価プロセスに透明性を持たせることが重要です。評価基準が明確になっていれば、従業員は努力の方向性が掴みやすくなり、仕事に対するモチベーションアップにもつながります。また 評価の結果だけでなく、日々のフィードバックや定期的な面談を通じて、上司が部下の取り組みをしっかり認める姿勢を示すことも効果的です。
従業員は上司から「正当に評価されている」と感じれば、仕事に対して前向きになり、自律性も高まります。さらに、公正な評価は従業員の信頼感を高め、長く組織に貢献したいという意識を育みます。
働きやすい環境づくり
安心して働ける環境を作ることは、従業員の帰属意識を高める土台となります。具体的には長時間労働の是正、ハラスメント対策、福利厚生の充実、柔軟な働き方(テレワークやフレックス制度)などを整備し、従業員が安心して働き続けられる環境を提供することです。逆に長時間労働やサービス残業、画一的な働き方とキャリアパスしかない組織では、従業員は働く意欲を失い、帰属意識を低下させることになるでしょう。また従業員の声を反映した職場改善の取り組みを進めることで「この会社は自分たちを大切にしている」と実感でき、愛着や帰属意識の向上につながります。会社が従業員の声を聞き、改善できる部分を直していくことにより、自然と従業員の帰属意識やエンゲージメントも高まります。
キャリア支援・成長機会の提供
従業員が自分の成長を実感できる環境は、帰属意識向上に大きく寄与します。従業員一人ひとりと定期的なキャリア面談を実施し、それぞれの掲げる目標や希望に沿ったスキルアップ支援や異動・昇進のチャンスを提供することが効果的です。「会社が自分を応援してくれている」と感じれば、従業員のモチベーションアップにつながり、帰属意識も向上します。また研修制度や資格取得支援などの自己啓発機会を充実させることで「この組織なら自分の成長を後押ししてくれる」という信頼感も生まれます。 従業員それぞれが独自のキャリアが描ける職場は、従業員の仕事へのモチベーションアップと職場への定着率、帰属意識向上に直結する重要な要素です
帰属意識を高める施策を実施する際のポイント
帰属意識を高める施策を実施する際は、次のポイントを押さえておくことが重要です。
・継続的かつ一貫性のある取り組みにする
・従業員の声を取り入れて双方向で進める
・施策の意図や目的を明確に伝える
継続的かつ一貫性のある取り組みにする
帰属意識を高める施策は、一度実施しただけでは効果が持続しません。一過性のイベントや制度導入で終わらせず、継続的に実施し続けることが重要です。たとえばコミュニケーション活性化のためのミーティングや経営方針の共有を年1回ではなく定期的に実施し、従業員が組織とのつながりを感じられる状態を維持する必要があります。また施策ごとに内容が変わって方針がぶれると、従業員は戸惑いかえって帰属意識が下がるおそれがあります。そのため帰属意識を高めるための施策では計画性を高め、継続性と一貫性を重視しましょう。継続性と一貫性を意識して取り組むことで、組織の方針や姿勢が安定することで信頼感につながり、帰属意識の定着を促進します。
従業員の声を取り入れて双方向で進める
帰属意識を高めるための施策は、従業員のニーズや価値観に合っていなければ効果を発揮しにくいため、一方的に制度や取り組みを押し付けないことが重要です。施策を設計・実施する際には、組織全体を対象にした定期的なアンケートや意見交換会を通じて、従業員の意見や要望を収集し、内容に反映させる姿勢が大切です。打ち出した施策を通して従業員が「自分たちの声が取り入れられている」と実感できれば、組織への信頼感が高まり帰属意識も自然と向上します。また施策実施後も定期的にフィードバックを求め、改善を続けることで施策の質と効果を高めることができます。従業員と双方向でやり取りを進め、常に施策を進化させていくことで、従業員の帰属意識とエンゲージメントが向上するでしょう。
施策の意図や目的を明確に伝える
施策を導入する際は、なぜその施策を行うのか、組織としてどんな意図があるのかを従業員にしっかり説明することが大切です。施策の目的が伝わっていないと、従業員は「形だけの取り組み」と受け取ってしまい、かえって帰属意識の低下を招くおそれがあります。特に組織のビジョン共有や評価制度の改善などは、組織として従業員をどう考えているのかが表面化しやすいため、どのように成長を支援したいのかを明確にして理解を得ることが重要です。経営層や上司が率先して施策の目的を発信し、従業員が自分ごととして受け止められるよう意識づけることが、施策の効果を高めることにつながります。
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まとめ
従業員の帰属意識について、メリットと低下する原因、高めるためにできる施策などを詳しく解説しました。多くの企業で人材不足が喫緊の課題となるなか、優秀な人材を定着させるには、組織への帰属意識を高めることが重要です。 帰属意識を高めるには、従業員が「会社に必要とされている」と実感し、組織側も従業員が働きやすい環境を整えることが必須です。従業員の意識を変革し、誰もが働きやすい職場環境を実現するなら、スキルアップとキャリアアップに貢献するユーキャンまでお問い合わせください。

