OJT研修とは?メリット・デメリット、手順や実施のポイントを紹介

  • OJT研修とは?メリット・デメリット、手順や実施のポイントを紹介

    公開日:2025.07.14

    更新日:2025.07.14

    OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とは、実際の業務を通じて行う社員教育の手法です。上司や先輩社員が指導役となり、新入社員や異動してきた社員に対して、業務の進め方や仕事のコツ、効率的な対応方法などを現場で直接指導します。
    本記事では、「OJTとは何か」という基本から、OJTを導入することで得られるメリット・デメリット、OJTに適した業務の種類、効果的な進め方のステップまで、OJTの活用法をわかりやすく解説します。企業内教育や人材育成を考える際の参考として、ぜひご覧ください。

OJT(On-the-Job Training)とは何か

OJT(On-the-Job-Training)とは、実際の業務を通じて行う教育・訓練のことです。上司や先輩社員が業務指導を行いながら、必要なスキルや知識を実践的に習得させる手法です。即戦力育成に効果的です。

OJTの内容

OJTで実施される内容には、次のようなものがあります。

内容
新入社員業務マニュアルの説明と実践
先輩社員による業務手順の指導
日常業務の実務体験とフィードバック
顧客対応や商談への同行
業務トラブル対応の指導
業務効率化やツールの使用方法の指導
若手社員課題やプロジェクト参加を通じた実践型の学習
定期的な進捗確認と面談による目標設定
報告書・資料作成の指導
中堅社員・リーダー候補リーダーシップとマネジメントスキルの基礎の指導


OJTとOff-JTの違い

OJTとは現場での実務や経験を通じた学びである一方、Off-JTは職場外で行う研修全般を指します。具体的な違いを比較すると次の通りです。

項目OJTOff-JT
場所職場・現場で実施する職場外(会議室、研修施設、オンラインなど)で行う
方法実務を通じて上司や先輩社員が直接指導する座学や研修、セミナー、eラーニングなどを通じて学習する
内容実務に即したスキル・知識を習得する業務に関連した知識・スキルを体系的かつ理論的に学ぶ
対象新入社員・若手社員・実務未経験者全社員、特定のスキルの習得が必要な社員など
目的即戦力化、実践的なスキルの習得基礎・専門知識の習得、リーダーシップやマネジメントスキルの向上
メリット・実務ですぐに活用できる
・内容ごとに個別対応がしやすい
・知識を体系的かつ理論的に学べる
・多人数に均一化した学習の機会を提供できる
デメリット・指導者のスキルに依存する
・属人的な内容になりやすい
・必ずしも実務に生かしやすい内容とは限らない
・学んだ内容を習得するまでに時間が必要


OJTとメンター制度の違い

メンター制度とは、社員のキャリアを精神的な側面から支援する仕組みです。OJTとメンター制度との違いは次の通りです。

項目OJTメンター制度
場所職場・現場で実施する面談の場やその場での相談
方法実務を通じて上司や先輩社員が直接指導するキャリアの悩みを精神的にフォローし、キャリア形成支援を重視する
内容実務に即したスキル・知識を習得するキャリア相談・メンタルケア・組織のルールや文化を伝える
対象新入社員・若手社員・実務未経験者若手社員やキャリア形成に悩む社員など
目的即戦力化、実践的なスキルの習得業務面・キャリア面・精神面でのサポートを通じて成長を促す
メリット・実務ですぐに活用できる
・内容ごとに個別対応がしやすい
・仕事への不安の解消や軽減につながる
・キャリアの方向性が明確になる
・離職防止に効果がある
デメリット・指導者のスキルに依存する
・属人的な内容になりやすい
・メンターの負担が大きい
・即効性が低い


OJTとオンボーディングの違い

オンボーディングは組織に新しく入った人材が、スムーズに環境や業務に適応できるように支援することです。OJTとオンボーディングの違いは次の通りです。

項目OJTオンボーディング
場所職場・現場で実施する場所は問わない
方法実務を通じて上司や先輩社員が直接指導する研修、オリエンテーション、チームミーティングなど様々な方法がある
内容実務に即したスキル・知識を習得する会社の制度説明、社内文化の理解、人間関係の構築、環境への適応
対象新入社員・若手社員・実務未経験者新入社員・中途採用者・異動者
目的即戦力化、実践的なスキルの習得新入社員や中途採用者が組織にスムーズに適応し、定着する
メリット・実務ですぐに活用できる
・内容ごとに個別対応がしやすい
・新入社員や中途採用者が職場に馴染みやすい
・早期離職の防止
デメリット・指導者のスキルに依存する
・属人的な内容になりやすい
・形式的な対応や説明では効果が不十分になりやすい

OJTの目的と役割

OJTの目的と役割について、どのようなポイントがあるのかを紹介します。

即戦力の育成

OJTの目的と役割の一つは、即戦力となる社員の育成にあります。実際の業務現場で、上司や先輩社員がマンツーマンで指導を行いながら、実務に直結するスキルや知識を習得させることが特徴です。座学研修では学びづらい、現場ならではの業務手順や判断力、対応力を短期間で身につけることができます。また仕事の進め方だけでなく、顧客対応やトラブル処理といった実践的な経験も積むことができるため、すぐに現場で活躍できる人材へと成長させることが可能です。そのため企業にとっては人材の早期戦力化を実現でき、生産性の向上にもつながります。

離職率低下・定着率向上

OJTの目的と役割には、離職率低下・定着率向上も関係しています。OJTでは、上司や先輩社員がマンツーマンで業務を教えるため、新入社員や異動者が早期に職場環境や仕事内容に慣れる手助けになります。また 日々の指導を通じてコミュニケーションが活発になり、不安や疑問をすぐに解消できる環境が整うことで、職場への安心感や帰属意識といった心理的安全性が高まります。 さらに仕事の進め方だけでなく、組織の文化や人間関係を理解しやすくなるため、孤立感を感じにくくなり早期離職の防止にも効果的です。OJTは従業員が安心して働き続けられる土台を作り、結果的に定着率の向上に大きく貢献する施策です。

職場のルールや文化への理解促進

OJTの目標と役割として、職場のルールや文化への理解促進も重要です。OJTは実際の業務を通じて上司や先輩社員が直接指導するため、仕事の進め方だけでなく、社内の暗黙のルールやマナー、職場特有の価値観や文化も自然に学ぶことができます。座学研修では伝えにくい社内のコミュニケーションの取り方、チームワークの重要性、報連相のタイミングなども実践の中で習得できる点が特徴です。その結果、新入社員や異動者が早期に職場に馴染みやすくなり、スムーズな人間関係の構築や業務適応が実現しやすくなります。OJTを通した職場文化への理解は、組織内での信頼関係や働きやすさの向上につながり、長期的な定着にも効果的です。

職場内での人間関係構築

OJTの目標と役割には、職場内での人間関係構築もあります。OJTは上司や先輩社員がマンツーマンで業務を指導する中で、日常的に密なコミュニケーションを取る機会が多く生まれます。その過程で単に業務知識を習得するだけでなく、信頼関係や安心感を築ける点が重要です。また業務以外の相談やフィードバックも受けやすい関係になれば、困った時に頼れる関係が自然に形成されます。これにより新入社員や異動者は孤立感を感じにくくなり、チーム内で円滑に協力しながら仕事を進めやすくなるでしょう。結果的に職場全体の雰囲気が良くなり、長期的な人材の定着やチームの生産性向上にもつながります。

研修にOJTを取り入れるメリット

研修にOJTを取り入れることで、どのようなメリットが期待できるのかを紹介します。

コミュニケーションの活性化

研修にOJTを取り入れるメリットの一つは、コミュニケーションの活性化です。OJTでは、上司や先輩社員がマンツーマンで業務指導を行うため、日常的に対話や報告・相談の機会が自然に生まれます。新入社員の持つ業務上の疑問や不安がすぐに解消でき、信頼関係が築きやすくなります。また指導する側も部下の状況を把握しやすくなり、チーム全体の連携が円滑に進む点もメリットです。結果として職場の雰囲気が良くなり、組織全体の活性化にもつながります。

育成コストの低減

研修にOJTを取り入れることで、育成コストの低減が図れる点も大きなメリットです。 OJTは日常業務の中で実践的に指導を行うため、外部講師を招いたり専用の研修施設を用意したりする必要がなく、教育に大きな費用がかかりません。また実務を通じて効率的にスキルを習得できるため、研修期間も短縮され、早期に即戦力化できるのもコスト面で有利です。指導者の工夫次第で教育内容を柔軟に変更でき、コストを抑えつつ効果的な人材育成が可能となります。

組織の独自文化の継承

研修にOJTを取り入れるメリットとして、組織の独自文化を効果的に継承できる点もあります。OJTは現場の上司や先輩が直接指導を行うため、業務スキルだけでなく、職場特有の価値観や行動基準、仕事への姿勢なども自然と伝えられる点が強みです。マニュアルや座学では伝えにくい、チーム内のコミュニケーションの取り方や暗黙のルールも実務の中で学べることも特徴です。新人や異動者が早期に組織に馴染みやすく、企業文化の浸透がスムーズに進む効果があります。

研修にOJTを取り入れるデメリット

研修にOJTを取り入れることで、どのようなデメリットがあるのかを紹介します。

教育に人手が割かれる

OJTを取り入れるデメリットの一つは、教育に人手が割かれる点です。指導役となる上司や先輩社員は、通常業務と並行して教育指導を担当する必要があるため、業務負担が増加します。特に繁忙期などでは指導に十分な時間を割けず、指導の質が低下する恐れがあります。また業務負担が大きくなれば、指導者となる社員の負担も大きくなることに加え、指導の内容自体がおざなりになるリスクも高いです。そのためOJTを実施する際は、指導者へのフォローや負担軽減策も合わせて講じる必要があります。

指導者の力量に内容が左右される

OJTのデメリットとして、指導者の力量に内容が左右されやすい点が挙げられます。OJTは現場の上司や先輩社員が指導するため、指導者自身のスキルや教え方の経験に教育の質も大きく依存します。指導が不十分な場合や教え方に偏りがある場合、習得すべきスキルが正しく伝わらず、指導者によって育成効果に差が出るリスクがあります。また指導者の感情的な対応や主観的な指導が続くと、指導される側のモチベーション低下にもつながるリスクも意識すべきです。そのため、組織として指導者への研修や指導方法を統一しておくことが重要です。

形だけの教育になりやすい

OJTを取り入れる際のデメリットとして、形だけの教育になりやすい点が挙げられます。OJTは現場での実務指導が中心となるため、指導者の業務が忙しい場合に、指導の時間を確保しにくくなることで形式的になりやすく、計画的な育成が行われないことが課題です。また指導者が育成の重要性を十分に理解していない場合、単なる作業指示に終始し、OJTとしての教育効果が薄れる恐れもあります。このような問題を防止するには、OJT実施前に指導者全員に研修の目的を共有し、指導計画やフォロー体制を整えることが重要です。

OJTに適している・適していない業務

OJTは効果的な人材育成をしやすい育成方法ですが、適している業務と適していない業務が明確に分かれています。 どのような業務があるのか、それぞれ紹介します。

適している業務

OJTに適した業務には次のようなものがあります。

適した業務業務内容
日常業務・ルーティン業務・書類作成
・データ入力
・発注・在庫管理
顧客対応・接客業務・電話対応
・来客対応
・営業活動への同行
チーム作業・現場作業・製造ラインの作業
・プロジェクトチームでの業務分担
トラブル対応・実践的な判断が必要な業務・クレーム対応
・緊急時の対応手順
社内システム・ツールの使用方法・業務システムの操作
・社内ルールの運用


上記の業務がOJTに適しています。その理由としては次の点が挙げられます。
・実務に即した対応や判断を指導できる
・一定のルールやマニュアルに基づいている
OJTは実務での即戦力となる人材を育成することが目的であり、職場内でのルールや慣行、手順などを実践を通して理解してもらうことが重要です。そのため、ある程度定型化された業務を覚えてもらう際にOJTによる指導が向いているといえます。

適していない業務

OJTに適していない業務には次のようなものがあります。

適していない業務業務内容
高度な専門知識が必要な業務・法務や会計などの専門的な業務
・AI開発やシステム設計などの専門技術に関する業務
重大なリスクや責任が伴う業務・高額取引の契約締結
・危険物を取り扱う業務
・医療や安全管理に関する業務
経営戦略や機密情報を扱う業務・企業の経営会議への参加
・機密プロジェクトの進行業務
単独で完結する業務・研究開発のような単独での作業
・データ分析やプログラム作成などの個人作業


OJTは定型化された業務や実践的な内容を学ぶのには適していますが、高度な専門性やリスクの高い判断、機密性の高い情報の取り扱いといった特殊な業務には適していません。また業務が単独で完結する内容である場合も、OJTの特徴であるフィードバックを得にくく、不向きな業務となります。

OJTの基本的な手順

OJTの基本的な進め方は「やってみせる(Show)」「説明する(Tell)」「やらせてみる(Do)」「評価・指導する(Check)」の4段階があります。それぞれの手順について詳しく紹介します。

やってみせる(Show)

OJTの進め方において最初の重要なステップが「やってみせる(Show)」です。Showの段階で意識すべきポイントは、指導者が実際の業務を行う様子を新人や部下に目の前で見せ、仕事の手順やポイントを具体的に理解させることです。やり方としては、業務の全体像を簡単に説明した後、実際の作業を一つひとつ丁寧に実演します。その際、どの部分が重要なのか、なぜその手順で行うのかを言葉で補足しながら進めることがポイントです。注意点として、指導者自身が正しい手順・ルールを理解し、常にお手本となる行動をとることが大前提です。また作業が習慣化しているベテランほど「見ればわかる」と省略しがちですが、新人の目線に立ち、丁寧に説明する姿勢が求められます。一つひとつの作業を論理的に実演することにより、部下は安心して業務を理解し、スムーズに実践へと移ることができます。

説明する(Tell)

OJTの進め方における「説明する(Tell)」の段階は、指導者が業務の内容や目的、手順を言葉で具体的に伝えるステップです。単に作業のやり方を伝えるだけでなく「なぜその作業を行うのか」「どこに注意すべきか」など背景や意図を丁寧に説明することがポイントになります。説明する際に意識すべきこととして、事前に業務の全体像を整理し、要点をわかりやすく伝える準備をすることが大切です。説明後に相手が理解しているかどうかを確認し、質問の機会を設けるとより効果的です。注意点として、専門用語や曖昧な表現を避け、相手の理解度に合わせた言葉を使いましょう。また一方的にならず、相手が疑問を感じたときに気軽に聞ける雰囲気作りも意識します。質問しやすい雰囲気を作ることで、部下が業務の目的を理解し、安心して実践できるようになります。

やらせてみる(Do)

OJTの進め方における「やらせてみる(Do)」ステップでは、実際に部下に業務を任せ、自分で手を動かして実践させます。指導する際は、いきなり難しいことをやらせるのではなく、最初に簡単な業務から取り組ませ、徐々に難易度を上げていくことがポイントです。そして業務中は基本的に口出しせず、部下が自分で考えながら進める姿勢を尊重します。注意点として、任せっぱなしにせず進捗や理解度をこまめに確認することです。特に失敗した場合は、その原因や改善点を一緒に振り返り、安心して再挑戦できる環境を作ることが大切です。またいきなり複雑な作業を任せず、段階的に成功体験を積ませることで自信を育みましょう。指導者は見守る姿勢と適切なタイミングでのサポートを意識することで、部下の成長の手助けとなります。

評価・指導する(Check)

OJTの進め方における「評価・指導する(Check)」の段階では、部下が実際に業務を行った結果を指導者が確認し、適切なフィードバックを行う重要なステップです。やり方としては、業務の進め方や成果物をチェックし、良かった点と改善点を具体的かつ明確に伝えます。 特にできている部分は積極的に褒めることで成功体験として自信を育て、改善点は具体例を交えて伝えるのが効果的です。 注意点は、曖昧な評価や感情的な指摘を避け、客観的かつ建設的なフィードバックを心がけることです。またフィードバックのタイミングはできるだけ早く行い、部下が次に活かしやすいように意識しましょう。評価は一方的に行うのではなく、部下にも過程と結果の自己評価を促し、対話を通じて理解を深める姿勢が求められます。

OJTが上手くいかない原因

OJTが上手くいかない主な原因である3つを紹介します。

コミュニケーション不足

OJTが失敗する大きな原因の一つに、コミュニケーション不足が挙げられます。OJTは上司や先輩社員が実務を通じて部下に指導する仕組みであり、指導者と部下の間で密なやり取りが欠かせません。しかし 日常業務の忙しさを理由に、指導者が十分な説明や進捗確認を怠ったり、部下が疑問や不安を相談しにくかったりする環境である場合、お互いの意図や理解度にズレが生じやすくなります。 特に新入社員や異動者は経験が浅く、自分から積極的に質問することが難しい場合が多いため、指導者からこまめに声かけを行い、意見や質問をしやすい雰囲気を作ることが重要です。また上司と指導者間でのコミュニケーション不足がある場合、OJTの進捗状況が把握しにくくなるうえ、指導者がどのような悩みと課題を抱えているかが見えにくくなります。結果としてコミュニケーション不足が続くと、部下は業務内容を正しく理解できないまま進めてしまい、ミスやモチベーション低下につながるリスクがあります。OJT成功のためには、業務指導だけでなく、部下の状況や感情に目を配り、対話を重ねることが不可欠です。

指導体制の整備不足

OJTが失敗する原因として大きいのが、指導体制の整備不足です。OJTは現場で実務を通じて指導を行うため、指導者個人のスキルや経験に頼りがちになり、体系的な指導がされにくい傾向があります。指導体制が整っていない場合「どの業務を、どの順番で、どのように教えるか」が明確になっておらず、指導内容にバラつきが生じやすいです。また指導者自身にOJTの目的や役割が正しく共有されていない場合、単なる業務の作業指示に終始してしまい、本来の育成効果が発揮されないこともあります。さらに指導者の業務負担が過大となり、教育に十分な時間を割けない状況が続くと、指導そのものが形骸化し、部下が十分にスキルを習得できない原因となります。OJTを成功させるには、事前に育成計画を策定し、指導マニュアルを用意するなど指導体制をしっかり整えることが重要です。

振り返りを行わない

実施後の振り返りを行わないことも、OJTが失敗しやすい原因の一つです。OJTは実務を通じてスキルや知識を身につけさせる仕組みですが、実践だけで終わってしまうと学んだ内容が定着しにくいという問題があります。業務をやりっぱなしにすると、自分がどこまで理解できているのか、どこに課題があるのかを振り返る機会がなく、同じミスを繰り返す原因になります。また指導者側も部下の理解度や成長具合を把握しないまま次の業務に進めてしまうため、育成の効果を高めることができません。特に新入社員や異動者は、自分の進捗や改善点を客観的に理解することが難しいため、指導者が定期的にフィードバックの場を設け、良かった点や課題点を具体的に伝えることが重要です。振り返りを行うことで、部下は自信を持ちながら業務を進められ、着実な成長につながります。

OJTの成功事例

日本でOJTを成功させた企業の事例を2社紹介します。

トヨタ自動車

トヨタ自動車は、OJTを含め中長期的な視点での人材育成を意識し、従業員の仕事を通じた自己成長を重視した施策に取り組みました。現場での実践的教育「現地現物主義」を徹底し、OJTを効果的に活用しています。トヨタ自動車は人材育成の基本をOJTと捉え、業務を通じて指導者が部下に課題解決方法や改善策を指導することが効率的な人材育成と考えているためです。具体的には新人や若手社員を現場のラインに配置し、先輩社員がマンツーマンで作業工程を指導し、それぞれのスキルと強み・弱みを把握します。これにより、従業員個々の持つ特性に応じた人材育成を可能にしました。さらに 「指導員制度」を導入し、指導者自身にも教育スキルを身につけさせる研修を実施しています。これにより実務スキルと同時にトヨタの改善文化(カイゼン)を浸透させ、即戦力となる人材を育成しています。

佐川急便

佐川急便では、新人社員を対象に先輩ドライバーが同行指導するOJTを30~70日間を目安として実施しています。佐川急便ではセールスドライバー職・宅配ドライバー職・デリバリー職・カスタマーサービス職・フィールド職という大きな括りがあり、それぞれの業務に合わせた実務研修を取り入れています。ドライバーに必要な運転技術だけでなく、接客マナーや商品知識、効率的な配達ルートの考え方まで実践的に教える仕組みを整えている点が特徴です。また定期的な振り返り面談を行い、課題や不安を早期に解消していることも即戦力となる人材育成につながっています。これらの取り組みにより、早期離職率の低下と現場での即戦力化を実現しています。

効果的なOJTを実施するポイント

効果的なOJTは人材育成の効果を高め、離職率の低下、組織の活性化にもつながります。OJTを効果的に行うためのポイントを6点紹介します。

綿密な育成計画を立てる

効果的なOJTを実施するためには、綿密な育成計画を立てることが重要です。 OJTは現場で実務を通じて指導を行うため行き当たりばったりになりやすいですが、計画がないまま進めると指導内容にばらつきが出やすく、必要なスキルを習得できないまま業務が進んでしまう恐れがあります。そのため育成計画を立てる際は、まず目標を明確に設定することが大切です。たとえば「〇カ月後までに基本業務を一人で遂行できるようにする」「顧客対応を一人で行えるようにする」といった具体的な目標を掲げます。そのうえで、どの業務をどの順番で教えるのか、どのタイミングで進捗確認を行うのかを細かくスケジュール化します。また指導者が何をどのように教えるのかを明確にし、必要であれば指導マニュアルも整備しておくと、教え方の質に差が出にくくなります。さらに定期的に振り返りを行う機会を計画に組み込むことで、習得状況を把握し、必要に応じて指導内容を柔軟に修正することも重要です。

世代毎の傾向を捉える

効果的なOJTを実施するためには、指導対象となる世代ごとの傾向を捉えることが重要です。近年ではZ世代やミレニアル世代の新入社員が増えており、これまでの指導方法がそのままでは通用しない場合も多く見られます。たとえばZ世代はデジタルネイティブで情報収集力に長けており、納得感や理由を重視する傾向があります。そのため指導時には「なぜこの業務が必要なのか」「どのような目的があるのか」を明確に伝えることが効果的です。一方でこの世代は人間関係を重視する傾向もあるため、指導者側も指示・命令という形ではなく、双方向のコミュニケーションを意識することがポイントです。またZ世代やミレニアル世代は個々の価値観を尊重し、仕事が自分のキャリアにどうつながるのかを示すとモチベーションが上がりやすい世代でもあります。逆にそれよりも上の世代は実践重視や「見て覚えろ」型の指導を受けてきた人が多いため、自身の若手時代の経験だけに頼らず、相手世代の特性に応じた柔軟な指導方法が必要です。世代ごとの価値観や学び方、傾向の違いを理解し、それに合わせた指導スタイルを取り入れることで、OJTの効果は大きく向上します。

組織全体で協力する体制を整える

OJTを効果的に実施するためには、組織全体で協力する体制を整えることも欠かせません。OJTでの指導は通常、新入社員の所属する部署の上司や先輩社員に任されがちです。しかし指導者一人に負担を集中させると業務と指導の両立が難しくなり、どちらの質も低下する恐れがあります。そこで 職場全体で「新人を育てる」という意識を共有し、チームでサポートする文化を醸成することが重要です。 具体的には部門ごとにOJTの育成方針やスケジュールを共有し、誰がどのタイミングでサポートするのか役割分担を明確化します。また新人育成に関わる全員が指導内容や進捗状況を共有できる仕組み(育成日報・面談記録など)を導入すると、指導の抜け漏れや重複が防げます。さらに上司だけでなく他部署や先輩社員からのフォローも得られる環境を整えることで、新入社員は安心して業務に取り組めるようになり、組織への定着も促進されるでしょう。組織の全員で協力しながら育成する体制を構築することが、OJTの効果を最大限に引き出します。

育成担当者・指導者のスキルアップを図る

育成担当者・指導者のスキルアップを図ることも、OJTを成功させるうえで非常に重要です。OJTは現場の上司や先輩社員が実務を通じて指導を行いますが、指導者自身に教えるスキルやマネジメント力が不足していると、効果的な育成ができず、指導内容にばらつきが生じやすくなります。特に注意すべきは「業務ができる=教えるのが上手い」とは限らない点です。業務ができる従業員は、自分だけのメソッドや考え方を持っていることは多々ありますが、それをわかりやすい形で言語化できるかどうかは別の問題です。指導者になるには業務知識だけでなく、相手の理解度に合わせた伝え方やフィードバックの仕方、モチベーションを引き出すコミュニケーション力が求められます。そのため企業側はOJT開始前に、指導者向けの研修や勉強会を実施し、「教え方の基本」や「効果的なフィードバックの方法」などを学ばせることが効果的です。また定期的なフォローアップや、指導者同士での情報共有の場を設けることで、指導の質の向上と継続的なスキルアップが期待できます。

OJT以外の研修方法も取り入れる

OJTを効果的に実施するためには、人材育成をOJTだけに頼らず、他の研修方法とも併用することが大切です。OJTは実践的なスキル習得に優れていますが、体系的な知識や理論を学ぶには限界があるため、座学やeラーニングといったOff-JT(職場外研修)を組み合わせることで、よりバランスの取れた育成が実現できます。たとえば業界知識やビジネスマナー、法律・安全衛生に関する基礎知識などは、OJTでは教えきれない部分が多いため、入社時や定期的なタイミングで集合研修やオンライン講座を実施すると効果的です。またOJT前に基本的な内容をOff-JTで学ばせておくことで、知識やスキルのアウトプットをしながら働けるため、現場での実践指導がスムーズに進みやすくなります。さらにグループワークやケーススタディを取り入れれば、チームでの協力のあり方や考え方、問題解決力も養えます。OJTとOff-JTを適切に組み合わせることで、実践力と知識の両面から従業員の成長を促進し、優秀な人材の育成が目指せるでしょう。

育成担当者・指導者の情報交流の機会を設ける

OJTでの指導力を高めるために、育成担当者・指導者同士の情報交流の機会を設けることも重要になります。OJTは通常、各指導者が現場で個別に行うため、教え方や育成の進め方が指導者ごとに異なり、指導内容にばらつきが生じるリスクがあります。ある新入社員が先の段階へと進んでいるにもかかわらず、別の新入社員はほとんど先に進めていないという事態が起こることも珍しくありません。そのため定期的に指導者同士が情報共有できる場を設けることで、効果的な指導方法や工夫を共有し、指導の質を均一化・向上させることが大切です。具体的には育成の進捗状況や指導における悩み・成功事例を共有するミーティングや勉強会を定期的に開催するのが有効です。また異なる部署や拠点の指導者同士が交流することで、自分では気づかなかった指導の課題や改善点に気づくきっかけにもなります。さらに情報交流を通じて指導者同士の連携が深まり、職場全体で新人を育てる風土が醸成される効果も期待できます。

人材育成のことならユーキャンへ

ユーキャンの研修では、ビジネスシーンで必要なスキルや組織活性化に不可欠な知識まで幅広く提供しています。集合研修やオンライン、eラーニングなど企業のニーズに合わせた多様な実施形式を用意しており、受講後のサポート体制も完備しています。ユーキャンの研修では知識のインプットだけでなく、演習やテストを通した知識・スキルのアウトプットと経験の蓄積にも重点を置いています。自社の人材育成、OJTの進め方に課題を感じている担当者の方は、ユーキャンにご相談ください。

まとめ

OJTについて、他の用語との意味の違い、導入するメリット、進め方の手順、成功のポイントなどを詳しく解説しました。OJTはほとんど企業で取り入れられており、新入社員や異動者、中途採用者の教育に活用されています。実務から学ぶという性質上、実践的なスキルの強化や人材の即戦力化、育成コストの節減など様々なメリットのある手法です。そしてOJTで優秀な社員を育成するなら、指導者への適切な教育も重要になります。指導者と指導対象者の両方に効果的なOJTを実施するには、ユーキャンのような人材育成の専門機関に相談するのがおすすめです。

お気軽にお問合わせください

ページトップに戻る