リスキリングとは何?
リスキリングとは、技術革新や業務の変化に対応するために、従業員が新たな知識やスキルを習得し、再び戦力として活躍できるようにする取り組みを指します。特にDX(デジタルトランスフォーメーション)や業務の自動化が進む現代において、既存のスキルだけでは通用しない場面が増えており、リスキリングは企業の競争力維持と従業員のキャリア継続を両立させる重要な施策として注目されています。
参考:リスキリングとは何?意味やリカレント教育との違い、DX化に伴う重要性を解説
リスキリングによる効果
リスキリングは国も推進する重要施策であり、人手不足が深刻な日本の企業にとって、既存人材を活かす解決策となります。実際にリスキリングを行っている企業がどのような実感を持っているのか、その効果についてみていきましょう。
効果を実感している企業の割合
日本企業のリスキリング状況を調査した結果によると、リスキリングの実施率は2024年8月時点で42.2%です。そのうえでリスキリングで何らかの効果を実感しているのは69.9%となっており、非常に高い割合で効果が出ているとわかります。特に情報システムやITシステム関連部門では必要性が高いことから、該当する部署にとってリスキリングは必須レベルの施策といえるでしょう。
パーソルイノベーション株式会社「企業におけるリスキリング施策の実態調査(2024年9月版)
参考: リスキリング支援サービス『Reskilling Camp』 企業におけるリスキリング施策の実態調査 (2024年9月版)
リスキリングの効果について
リスキリングは企業の大小を問わず、多くの企業で実施されています。特にITプロジェクトマネジメント、セキュリティ、AI活用などの分野では、特に多くの企業でリスキリングが行われています。実際に生成AIを業務に活用する環境を用意している企業も増加しており、そのような企業も約8割がリスキリングの効果を実感していることから、非常に効果的な施策といえるでしょう。
リスキリングを導入すべき企業の特徴
リスキリングを導入するなら、どのような企業におすすめとなるのでしょうか。リスキリングを導入すべき企業の特徴を5つ紹介します。
デジタル化を推進している企業
デジタル化を推進している企業は、業務の効率化や新しいビジネスモデルの構築に向けて、ITツールやデジタル技術の導入を進めていることが多いです。しかし現場の従業員がその技術を十分に使いこなせなければ、導入効果は限定的となります。そのためリスキリングを通じて社員に必要なデジタルスキルを習得させることで、新システムへの対応力を高め、組織全体の生産性や競争力を向上させることが可能となります。
業務内容の変化が激しい企業
業務内容の変化が激しい企業では、市場環境や顧客ニーズの移り変わりに迅速に対応する必要があります。新しい技術やサービス、業務プロセスが次々と導入される中で、従来のスキルでは対応が難しくなる場面も増えます。そのためリスキリングを導入することで社員が変化に適応し、必要な知識やスキルを身につけることができ、企業全体として柔軟で強靱な組織運営が可能です。
既存人材の再活用を重視する企業
既存人材の再活用を重視する企業では、新たな人材を外部から採用するのではなく、社内の人材を育成・配置転換することで組織力を高める施策を行っていることが多いです。その際に異なる職務や新たな業務に対応できるようにするには、リスキリングが不可欠です。社員に必要なスキルを再教育することで、人材の柔軟な活用が可能となり、人件費や採用コストの削減にもつながります。また社員のキャリア形成にも良い影響を与え、離職防止にも効果的です。
人材不足に課題を抱えている企業
人材不足に課題を抱える企業では、新たな人材を外部から確保するのが困難なため、既存社員のスキルを高めて活用することが重要になります。リスキリングを通じて必要な業務に対応できる人材を社内で育成することで、人手不足の解消と業務の質の向上を同時に図ることが可能です。またスキルの多様化を促進することで、1人の社員が複数の役割を担えるようになり、組織の柔軟性と対応力が高まることで安定した事業運営につながります。
多様なキャリア支援を重視している企業
多様なキャリア支援を重視している企業では、社員一人ひとりの適性や希望に応じた成長機会を提供することが求められます。リスキリングは異なる職種や分野への挑戦を後押しし、キャリアの選択肢を広げる手段として有効です。社員が自律的にキャリアを描けるようになることでモチベーションやエンゲージメントが高まり、組織全体の活性化にもつながります。そのため、長期的な人材育成の視点からもリスキリングは不可欠な取り組みといえます。
リスキリング導入事例8選
リスキリングを実際に導入している企業は国内・国外に数多くあります。代表的なリスキリングの事例を8社紹介します。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、製造業のデジタル化やCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)といった業界の大変革に対応するため、全社的にリスキリングを推進しています。特に注力しているのは、現場社員を含む全職種に対するITスキルやデータ活用能力の教育です。たとえばスマートファクトリー化を進める中で、製造現場の作業員にもIoTやAI、センサー技術などの基礎知識を学ばせ、設備の自動制御や不具合の予測といった先進技術を扱える人材の育成を図っています。また技術職向けのトヨタ工業学園だけでなく、事務職や営業職などを対象にしたリスキリングキャンプなどの社内研修制度を整備し、プログラミングやデータサイエンス、プロジェクトマネジメントといったスキルも体系的に学べる環境を構築しています。こうした取り組みにより社員の業務遂行力や柔軟性が高まり、技術革新への対応力が向上し、全社的な DX(デジタルトランスフォーメーション)推進においても大きな成果を挙げています。
参考:トヨタグループ5社、AI・ソフトウェアの人財育成とイノベーションを加速
参考:独立行政法人情報処理推進機構 キャリアインタビュー Vol.2
参考:TOYOTA Integrated Report2023
参考:トヨタ工業学園とは|モノづくりのプロを育むトヨタの企業内訓練校
KDDI
KDDIは通信業界における DX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させるため、全社的にリスキリングを推進しています。2021年には、社員の自律的な学習を支援する社内教育「KDDI DX University」を設立し、データサイエンス、AI、クラウド、IoTなどに関する講座を展開しています。この大学は専門スキルに応じた複数のコースを用意しており、初心者から実務者レベルまで幅広く対応しているのが特徴です。特に非IT部門の社員にもデジタル知識の基本を習得させる全社員向けDX基礎スキル研修やコアスキル研修、専門領域別研修を実施し、職種を問わずデジタル時代に必要な基礎力を醸成しています。また実務に即した学習として、ビジネス課題をもとにAI分析を行う実践型研修や、社内や学生向けにハッカソン(ソフトウェアなどの開発イベント)への参加機会も提供している点にも特筆すべきです。さらにデータ活用人材としての認定制度も整備し、キャリア形成にもつなげています。これらのリスキリング施策により、KDDIでは実際に新規事業の創出や業務改善の提案が増加し、部門横断的なデジタル活用が進展するといった大きな成果も出ています。全社でのデータドリブン(データを軸にして動く)な意思決定や、効率的なサービス提供が可能になり、リスキリングはKDDIの企業文化としても定着していることから、変化に強い人材育成の基盤といえるでしょう。
参考:求む!未来のDX人財 「KDDI DX University」を設立したKDDIのDXに懸ける本気度
参考:人財育成 | 社会 | KDDI株式会社
三井住友銀行
三井住友銀行(SMBC)は、金融業界におけるDX推進と人材戦略の一環としてリスキリングに積極的に取り組んでいます。同行ではデジタル人材の育成を目的に、2016年から「デジタルユニバーシティ」、2021年からは「デジタル変革プログラム」という全従業員向けの社内教育プラットフォームを導入しました。これはデータ分析やAI、プログラミングなどの専門知識に加え、ビジネス思考やプロジェクトマネジメントのスキルも含む体系的な学習環境を整備したものです。特徴的なのはIT部門だけでなく営業や企画部門の社員も対象とし、職種横断的なリスキリングを推進している点です。社員は自らの業務に直結する分野を選び、オンライン研修やワークショップ形式の実践型講座で学習を進めます。この取り組みによって、実際にAIやデータ分析を活用した営業支援ツールの開発や事務作業効率化のためのロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)導入など、現場発のDX施策にもつながっています。
参考:第2編 第12章 2. (6) デジタル人材の育成|SMBCグループ二十年史
参考:お客さまと共にDXを加速させていく。SMBCグループ全従業員対象のデジタル変革プログラム「デジタルユニバーシティ」が目指すもの | DX-link(ディークロスリンク)- 三井住友フィナンシャルグループ
参考:中央教育審議会大学分科会大学振興部会ヒアリング 資料2 SMBCグループにおける生産性向上の取り組みと文理融合人材の重要性
RPAで約600万時間削減、印刷量半減。SMBCグループが本気で取り組む、生産性向上と業務効率化の極意。 | DX-link(ディークロスリンク)- 三井住友フィナンシャルグループ
リクルート
リクルートは多様な人材が自律的にキャリアを築ける環境づくりを重視し、社内でのキャリアチェンジやスキル習得を支援するためにリスキリングに積極的に取り組んでいます。特徴的なのが、社内異動制度「キャリアチャレンジ制度」と連動したリスキリング施策です。この制度では社員が自ら希望する部門へ異動を申し出ることができ、異動前後には必要な知識やスキルを習得するための学習支援が提供されます。またeラーニングや外部講座、社内メンター制度などを活用し、マーケティング、データサイエンス、プロジェクトマネジメントなど幅広い分野のスキルを学べる環境が整備されています。さらに現場での実践を通じてスキルを定着させる学びと実務の融合も重視しており、業務と学習が自然に結びつく仕組みを構築している点も特徴といえるでしょう。こうしたリスキリングの取り組みにより、異業種出身者や非専門職でも新たな分野で活躍できる土壌が広がり、実際にデジタル分野や新規事業開発に挑戦する人材も増加しつつあります。
参考:「やりたい」を貫いて 新規事業への挑戦や社内異動…支えてくれたのは上司たち | 株式会社リクルート
参考:ミドルからのキャリアチャレンジ(40歳代) | 人材育成・研修のリクルートマネジメントソリューションズ
参考:人材育成・成長支援|株式会社リクルート
パナソニックホールディングス
パナソニックホールディングスは、製造業におけるデジタル変革とグローバル競争への対応を目的として、全社的にリスキリングを推進しています。2021年5月よりグループ全体でIT・データ活用スキルの底上げを図る大規模な教育施策を展開しています。この取り組みでは社員の階層やスキルレベルに応じた研修体系を整備し、基礎的なDXリテラシーから、データ分析、AI活用、プロジェクト推進力まで段階的に学べる環境を用意している点が特徴的です。また実践型の学習として、現場の課題を題材にしたプロジェクトベースの研修や、ビジネス部門とIT部門の混成チームによるワークショップなども行われています。その成果として製造現場での生産性向上や不良品削減に直結するデータ分析ツールの導入が現場発で進められるようになったほか、営業・企画部門においてもデジタルを活用したサービス提案も行われています。
参考:7つの原則を約束~「PX」 Panasonic Transformationの現在地
参考:DXの取り組み - 企業情報 - パナソニック ホールディングス
参考:教育・研修制度 | 働き方を知る | 採用情報 | パナソニック テクノサービス株式会社 | Panasonic
参考:データ分析環境とデータ活用伴走で事業現場に寄り添い、パナソニックグループを支える組織とは - TECH PLAY Magazine
日立製作所
日立製作所は、社会イノベーション事業を中心とするビジネスモデルへの転換を進める中で、全社員を対象としたリスキリングに力を入れています。特にデジタル技術の活用を強化するため「DXを推進する人材育成」の指針を発表し、IT・AI・データサイエンスなどの知識と実践力を育てる体系的な教育として「DXリテラシー研修」を展開しています。このプログラムは、基礎的なDXリテラシーレベルの社員から、専門的なエンジニアスキルを持つ社員まで幅広くカバーしており、グローバルまで含めれば30万人超の従業員が対象です。日立独自のeラーニングプラットフォームやオンライン講座に加え、実務と連動したプロジェクト型のトレーニングも行われ、学びと実践の融合が図られています。またスキル習得状況を可視化する仕組みも整備されており、社員自身のキャリア形成支援にもつながっています。こうした取り組みの成果として、社内でのAI活用やデータ分析を通じた業務改善事例が多数生まれ、顧客向けのDX提案にもつながるようになっています。
参考:日立アカデミー:DXを推進する人財育成
参考:株式会社日立製作所:経営戦略に連動した人財戦略の実行
参考:デジタル人材9.7万人へ、日立が活用する教育手法
参考:日立講習会eラーニング:日立アカデミー
参考:eラーニング | 日立エナジー
参考:キャリア・教育制度|日立アカデミー採用サイト
Amazon
Amazonはグローバルな規模で人材の多様性と持続的成長を実現するため、リスキリングに積極的に取り組んでいます。その代表的な施策が「Upskilling 2025」プログラムで、2025年までにアメリカ国内の従業員10万人を対象に新たなスキル習得を支援するという大規模な取り組みです。対象者は倉庫作業員から本社社員まで幅広く、社内外でのキャリアの選択肢を広げることが目的とされています。このプログラムではデータサイエンティスト、クラウドエンジニア、ITサポートスペシャリストなど、将来的に需要の高まる分野への転職や社内異動を想定し、必要なスキルを体系的に学べる教育機会を提供しています。研修形式もオンライン学習、実地訓練、提携専門機関との連携講座など多様で、従業員が自らのペースで学べる点が特徴です。その成果として、これまでに多数の従業員がテクノロジー分野へのキャリアチェンジに成功し、社内の人材流動性と定着率が向上しました。またキャリア形成支援によって従業員のモチベーションも高まり、全体のエンゲージメント向上にも貢献しています。
参考:アマゾン、米従業員10万人の再教育に760億円を投資へ
参考:9 free skills training programs that help Amazon employees land higher-paying roles
IBM
IBMは急速に進化するテクノロジーに対応し続けるため、全社的なリスキリングを重視してきた先進企業のひとつです。特に「SkillsBuild」や「Your Learning」といった独自の教育プラットフォームを活用し、社員だけでなく外部人材や学生にも幅広い学習機会を提供しています。中でも「Your Learning」はAIを活用した学習支援システムで、社員の役職や業務内容、スキルの習得状況に応じて最適なコンテンツをレコメンドする仕組みとなっており、日常的に学び続ける文化を醸成しています。またリスキリングの重点領域としてAI、クラウド、サイバーセキュリティ、量子コンピューティングなどを設定し、各分野の専門知識と実務スキルを体系的に学べるよう設計されている点も特徴的です。さらに「IBM Badge」と呼ばれるバッジ認定制度によりスキル習得の証明が可能で、社内外でのキャリア展開にもつながる仕組みが整っています。これらの取り組みにより、IBMでは社内異動の活性化やプロジェクトごとに最適な人材を迅速に配置する柔軟な体制が実現しています。人材の再配置や昇進時のスキル証明にも活用され、組織の機動力が向上しました。
参考:テクノロジー・エキスパートによる無料のスキルベース学習|IBM SkillsBuild
参考:AIスキルアップ戦略 | IBM
参考:日本IBMのリスキリングに関する取り組みにおける成功要因と考慮ポイント
参考:生成AI時代、人類のポテンシャルに新たな光を当てる | IBM
リスキリングの実施を検討しているならユーキャン法人研修
ユーキャンでは、既存人材の再活用や企業のDXを推進するリスキリング研修を実施しています。実施方法は企業のニーズに合わせた多様な実施形式を用意しており、受講後のサポート体制も完備しています。さらに知識のインプットだけでなく、演習やテストを通した知識・スキルのアウトプットと経験の蓄積にも重点を置いている点も特徴です。 「リスキリングでIT人材を育成したい」「社内のITリテラシー教育・DXを促したい」このような悩みを抱える経営者、人事担当者の方はユーキャンにご相談ください。
まとめ
リスキリングは企業の人材を効率的に活用し、社内のIT・DXを推進するための未来に向けた施策です。企業の大小を問わず、国内企業は人手不足に悩まされており、リスキリングはその解決策のひとつとしても期待されています。しかしリスキリングは専門の知識がなければ教育が進まず、研修の内製化が難しいという問題もあります。DXで自社の生産性を高め、現場から業務改革を提案できる組織を目指すなら、ユーキャンにおまかせください。

