うずきからはじまる８つのストーリー その５

もう勘弁してくれよ…。
外出先から戻る途中、佐伯先輩の「ゆとりだかさとりだか知らないけど！」というお馴染みの愚痴（っていうか事務の奈美ちゃんでしょ）に、適当に相槌をうつ。
家に帰ったら、今度は妻の愚痴を聞かされるのだろう。
私はこんなに頑張っている、私はこんなに大変だっていう押し売り。
正直、俺は今、それどころじゃないんだよ！
この前の企画コンペで、同期が社長賞をとった。
自分ではかなり自信があった企画だったのに…、よりによって何でアイツなわけ？

エレベーターを降りるとタイミング悪く、例の同期と遭遇してしまった。「この前のコンペで社長賞とったんだって？すごいじゃない…」
談笑する二人の横で、俺はかなり複雑な思いを抱いていた。
ああ、本当の俺は、こんなもんじゃない！！…はずなんだ。

そしてついに、その日はやってきた…。
マジか。
例の同期の昇進を知った時、「おめでとう」という言葉が出るまでに数秒の間が出来てしまった。
そんな自分に更に落ち込む。

このままじゃ、俺、ヤバいんじゃない？
そろそろ俺だって責任のあるポジションにつかなくちゃいけないんじゃない？
今すぐ行動しなければ！！…何となく気にはなっていたけれど、先延ばしにしてきた中小企業診断士の資格。ネットで調べたら学習方法には通うタイプのセミナーなどもあったが、働きながらのライフスタイルを考えたら通信講座の方が現実的だと思い、ユーキャンの講座を申し込んだ。
で…、届いた教材を見て、速攻怯んだ。
これは想像以上に手強いぞ…、と。
でもここで逃げるわけにはいかない。
毎日の通勤時間を利用して、とにかくテキストをどんどん読み込んでいくことにした。「教科書を読む」というよりは「本を読む」ような気持ちでページを進めていくうち、だんだんコツがつかめて勢いがついた。
仕事が早く終わった日は、気分転換にカフェで勉強をしてみることにした。ある日、近くに座った女性が同じようにユーキャンのテキストを開いて勉強を始めたので、何だか戦友を見つけたようで嬉しくなり、思わず「もしかしてユーキャンですか？」と話しかけてしまった！
決してナンパではない！念のため！（笑）

勉強し始めてすぐに効果は現れた。
経済学や運営管理、財務会計など幅広く経営のことを学ぶので、今までよりも広い視野で物事を考えられるようになったのだ。
この前、部長には「今回の提案書、凄く良いね」と褒められた。
佐伯先輩にも「山口君、なんか変わったね！」と言われた。
「仕事の仕方に自信が見える」らしい。
自分がちゃんと会社や仕事に向き合って努力していると、それがそのまま自信になって現れるんだということが改めてよくわかった。
同期のアイツと俺の違いは、そこだったんだろうなって。
この先、必ず追いついてみせるけど！

それに、妻にも悪かったなって思う。
あの頃は自分に余裕がなくて全然優しくできなかったから、一次試験に合格した時は、妻にサプライズでディナーをご馳走しようと密かに決めている。